1話目
はらり、とローブのフードを落とすと、そこにあったのは美しい顔、ではなく真っ白な何かの頭蓋骨であった。
細長く、竜にも似た骨。これが仮面なのか魔王の顔なのかは誰にも分からない。
声は女性のものであったが、その風貌からは同性なのか異性なのかも分からない。いや、そもそも魔王に性別があるのかすら疑問ではあるが。
じっとその骨を見つめたまま動かない王子を魔王も見つめる。
表情は読めない。動かない骨なのだから当然だが。
横に座っている兄弟たちは血の気が引いて、みるみるうちに顔面の色が青を通り越して白くなっていく。まさか、自分たちの兄弟のところで足を止めるなんぞ思いもしなかったことだ。長女はあまりの出来事にとうとう気を失ってしまった。
魔王は彼を見る。遠目からでも分かってはいたが、健康状態はあまりいいとは言えない。礼服もブカブカで、彼の体にはだいぶ大きすぎる。顔合わせの予定はだいぶ余裕を持って通知したはずだが、礼服すらまともに与えないとは。
魔力に依存する世界とは、なんと浅ましいものなのか。
落胆の色を滲ませたが、それでも王子の瞳は澄んだ空色をしていた。金色の髪に青い目はこの世界ではありきたりな組み合わせだが、よく見ればここまで透き通った水色はなかなか見つからないはずだ。
それほどまでに、この王子が持つ色は稀有であるのだ。
少しずつざわめきが大きくなる。
ーあれはどこの国の王子だー
ー魔王に見初められたってことか?ー
ー見て、骨の顔よ…恐ろしいわ…ー
ちらほら言葉が出てくると、あちらこちらで会話が始まる。しかしそれもつかの間、魔王が侍らしている魔獣が威嚇の声を出すと一瞬にして静けさが戻った。
やはり、人間の好奇心すら恐怖には勝てなかったのだ。
口を閉ざした者たちは再度例の2人を見やる。
身長にすれば己の半分にも満たない幼子に魔王はプロポーズとも取れる言葉を贈った。
その先の言葉を全員が待つが、小さな王子はまだ動かない。
呼吸すら止まっているのだ。
弟が何も返答をしないことに痺れを切らし、隣に座っていた兄が肘でつつくと、ハッと息を吹き返したかのように彼は口を開いた。
「私の、お嫁さんに、なってくれるということでしょうか…?」