ありふれた貴きものよ
もつれ合う腕と腕の重み。
吐き出される重厚で濃密で卑猥な吐息。
絡み合う足でお互いを縛り合う。
この獣じみた行為の名前は、それはそれはありふれた貴き物だというのに、あからさまにすれば嫌悪を示す人も居る。
それでもこの行為以外に、異性として産まれ、たった一つの自分と合う物とは繋がることは出来ない、いや、こうして繋がれても、お互いを知ることは出来ない。
果てて疲れてお互いの腕の中で、お互いの存在を確かめ合って、ただ、ただ、優しく愛おしく、愛をささやき合って、それでも埋まらぬ溝を塞いで、流し込んですき間を埋めても、どれだけ伝え合うために行為を行っても、埋め合う事なんて出来ない。
お互いにある腹の中を見せ合えたら、どれだけ良いか。
判らぬからこそ埋めていく。
次いつ会える?お互いにスマートフォンを操りながらスケジュールを確認していく、少し先になりそうだななんていう心地の良い声を胸の上に置いておいた耳が聞く。
空気の振動以外、心地の良い内臓を通した声の響きに目を細めて、ただ、いつ会えるのかと頭の中で少し責める。
言葉にだせば負けたような気がして、すっと頬をすり寄せた。
大人になると判る。
相手の人生に寄り添うことは出来ても、相手の総てになり得ることは出来ないのだと。
それでも、こうして繋がり合える人間が自分だけだという事実に心地良さを憶える。
シャワーを浴びて腹の中のから重力に従って流れ落ちた白濁した液体が泡と共に排水溝へと流れていく。
胎む事も無く、ただ、吐き出されただけのそれは、無意味に流れていく。
ぽっかり開いたような気持ちにもなるが、胎んだところで意味も無い。
お互いに外してあった指輪をはめる。
内側にはそれぞれの名前では無い刻印のある、契約に縛られた証をはめて部屋を出る前にキツく抱き合う。
少し早く互いに出会っていたとしても、きっとお互いの熱を交換する中にはならなかっただろう。
縛られた上の背徳的な行為に名前が付くとしたら、それは、犯罪だ。
お互いに犯罪を犯してでも、こうして熱を与え合いたいのだ。
愚かにも、愚行を重ねるしかないのだ。
ねぇ、次、いつ会える?
お互いを鎖で縛るただ一つの言葉は、この一文だけ。