1.「そして少女は目覚めた」
ぱちぱちと火が跳ねる音で目が覚めた。
今まで出会ったこともないくらいふわふわのベット。
あぁ、私は死んだんだな。ここは天国かなっと思ったんだけどどうも違うようだ。
なにせ天使も悪魔も、北斗もいない―。どうやらここは誰かの家なんだろう。
でも、私が知ってる家とは少し違う。さっきから柔らかい音を鳴らす暖炉。その暖炉で燃えているのは薪ではなく、星のようなものがきらきらと光っていた。柔らかい黄色の光が暖かく辺りを照らしている。
あの星は一体なんなのか。
ベットからおりて暖炉に近づいてみたけれど、なぜかボヤけて輪郭がはっきりしない。
ふと、窓の外を見ると夕闇が迫っているのか空は薔薇色に染っていた。
*☆*☆*☆*☆*☆*☆*
「目が覚めた?」
声がするほうを急いで振り返った。
―――北斗がいた。
あれは夢なんかじゃなかったんだ。あの子が優しく微笑んでいる。
そうか、ここは天国だったんだ。
あまりの感情の波に何も出来ないでいると、彼は少し屈んで私の瞳を覗き込んだ。
「あの、たぶん君が思ってる人と僕は違うと思うんだ。よく見て。」
改めて見るとたしかに違う。まず瞳の色。北斗は私と同じ鳶色の瞳をしていたはずだった。でもこの彼の瞳は蒼空のような目の覚める青色。
そして、髪の色。北斗は日本人らしい黒髪だったけど、彼はまるで太陽のような金髪だった。
―――違う。
髪や瞳の色だけじゃない。あの笑顔だ。あの子の微笑んだ顔はあんな軽薄じゃない。まるで、"心"がない様な…。
とにかくあんな顔する子ではなかった。
「…あなた、誰なの?その顔はなに?それにここは?」
喉は水分を失い掠れた声しか出なかった。でも聞きたいこと全てを聞けた。明らかに怪しい。また、"あいつら"の嫌がらせかと身構えた。
「驚くのは無理もないか…。とりあえず飲み物でもどう?」
みると、彼は何かの鉱物でできたカップを2つ手に持っていた。中にはお茶が並々と注がれ湯気がでている。
「毒なんかはいってないし、なんならここで両方飲み干しても構わないけど。」
「そこまでしなくていいです…。」
とにかく座ってと彼は暖炉の前にある小椅子を私に進めた。
北斗の顔をしているからかもしれないけど、どうも彼の言うことを素直にきいてしまう。
渡されたカップは思いの外軽く、そしてとてもいい匂いがした。心身ともに乾き切っていた私は思わず口をつけてしまった。
「おいしい…」
つい、声が出てしまった。身体の乾きを癒すような優しくどこか甘い味がした。
「よかった。僕料理はからっきしだけど、お茶だけは上手く淹れれるんだ。」
北斗の顔をした男はそう言うと床に座り満足げにお茶を飲み始めた。
常に微笑んではいるものの微かな違和感がある。どこか変なわけでは決してない。でも、常に張り付いた微笑みになにか意味など感じ取れなかった。
「その…。無理に笑わなくていいですよ。なんか変ですから。」
「そう?じゃあやめるよ。中の住人のしかも君の国の女の子は常に笑顔がいいってきいたから。」
あまりに不躾な言い方かと思ったけど、彼は素直に微笑むのやめてしまった。やっぱり、無理をして微笑んでいたみたいだった。
そっちの方がよっぽどましな顔になったけど如何せん機械のようで感情が読めない。
「じゃあ、さっそく君が聞きたいこと全てを話そうか。」
そう言うと彼はこの不可思議な世界について語り始めた。