[3]-4
「魔力があふれている時点で気づいていました。違うのであれば、魔力を持っている人間か。そういう人間は、魔法使いに見つかったらタンク扱いされてしまうのが常ですけれどね」
「そんな魔法使いは悪じゃ、悪!」
なに、のじゃのじゃと言っているのだと思いつつ、二人の会話に何とか割り入るチャンスを与えてくれないモノかと思いながら俺はじっと二人を見つめていると、
「ところで……隣の彼は魔法使いでは無さそうですが?」
「ああ、俺は実は、」
こいつに狩られたただののけ者ですなんてことを言おうとした矢先、
「ぼうっとしていたからただの人間かと思っていたら、魔法に耐性があるものだからついてきてもらった。名前はボート。今日からそう呼ぶことにしよう」
「なんでそんな名前なんだよ!」
「ぼうっとしていたから、ボート、だったり?」
その図書委員の言葉を聞いてくすりと笑みを浮かべる副島。
え? 本当にその親父ギャグみたいなたとえで正解なのか?
「あははっ、面白い名前ね。それならわたしもそう呼ばせてもらうことにしようかしら、ボートくん?」
図書委員はそう言って笑うと、俺の名前を聞くことすらせず、ボートという(副島が勝手に決めた)渾名を受け入れてきやがった。はっきり言って人に渾名を決められてこれを全員が理解して使っていたらどう思う? 俺は不愉快だ。俺は不愉快だね。
「さあ、ボート! 理解者も生まれたことだし、さっさと図書室を間借りする許可を先生から貰ってくるわよ!」
「おいおい、俺の名前はボートじゃあなくてだな……!」
「聞かないっ、聞かないっ! そんなことはどうだっていいでしょっ! さっ、急ぎましょっ!」
俺は聞いて欲しいのだが。
そんなことを考えていたら強引に手を引っ張ってきやがった。
この女、異性と手を触れあうというイベントについて何も考えていないな……!
かくして俺たちは図書室を後にする。
その後、副島の無理難題な理屈によって、図書室の準備室(真奈木先生曰く、いろいろな本を保管している保管室)を部室として借りることが出来たわけであった。
まさかほんとうに部室を借りることが出来るとは……そんなことを思いながら、俺はふんふんと鼻歌を歌う副島の隣でうだつが上がらない表情をすることばかりしか出来ないのであった。
図書室に戻ると、図書委員が帰る準備をしていた。
「あれ? もう図書室の業務はお終い?」
「お終いというか、今日は塾があるから……。それに、図書委員は常に図書室にいるってわけでも無いのよ。居ない時間は自分たちで管理してもらう必要があるけれどね」
「それって、勝手に本を盗まれる危険性は無いのか?」
「それは、生徒本人の倫理観に問うしか無いわね。それに、今日からはここはあなたたちが使うのでしょう?」
「えっ、なんで分かったんです?」
図書委員の言葉に、俺は目を丸くした。
「だって、こんなに嬉しそうな表情をしているのですから。首尾良くいった、としか考えようがないでしょう?」
俺は頭を掻きつつ、副島のキラキラと輝く笑顔を見ながら、深々と溜息を吐く。
「ま、それもそうですか」
「そうだ! あなたも同好会に入らない? 魔法に関する素養があるのならば、わたしだってこの同好会を作った甲斐があるってものよ!」
「ええっ? でもわたし塾が……」
「塾なんてどうだっていいじゃあない! 塾の日は仕方ないにせよ、全部の日が塾って訳でもないでしょう? だから、塾が休みの日に限って、活動をしてくれればそれでいいから!」
そう言って半ば強引に『入部届』を手渡す副島。それって脅迫か何かの類いじゃあないのか? そんなことを考えていたのだが、図書委員は意外にもあっさりとそれを受け取った。
「分かったわ、ここまで来たら乗りかかった船だしね。魔法だって、ちょっとは気になっていたし」
「よっし、それじゃあ、名前を教えてちょうだい?」
「茅。新島茅よ。よろしくお願いします。……入部届は明日持ってくればいいかしら?」
「それでバッチグーよ!」
ちょっと古い表現だと思うぞ、それ。
茅さんは聞くところによると二年生だということで、つまり一年生である俺たちからすれば先輩に値するらしい。おおっと、それは初耳だし新情報だし聞いたことのない話だ。茅さん曰く、だって聞いていなかったでしょう? とのこと。ううん、確かにそりゃあそうだ。
茅さんは入部届を鞄に仕舞うと、図書室を後にしていった。
その後、俺たちは準備室の整理整頓をこなして机の掃除をしてようやっと部室の態勢を整えたところで全員下校するべしと報せる五時のチャイムが鳴るのだった。
「活動は明日からね! じゃあね、ボート!」
というわけで後片付けなどまったくするはずもなく、副島はそのまま図書室から外に出て行くのだった。少しは手伝え、お前も。