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「容認して貰えるように、魔法を使ったに決まっているじゃあない。ま、あれぐらいの魔法、耐性がある人や同じ魔法使いなら効かないパターンがあるけれど。つまり、わたしが言いたいこと、その意味が分かる?」
「……ちょっと待ってくれ、その可能性だと、俺が魔法使いか、魔法に耐性がある人間だと?」
「そうとしか考えられないけれど」
「待ってくれ。俺はただの人間だ。お前と出会ったのは、単なる偶然に過ぎないよ!」
「それで納得出来るほど、わたしも馬鹿じゃあないわ」
副島は俺の頬を撫でる。
普通なら恥ずかしいシチュエーションの一つになるのかもしれないけれど、今は恐怖そのものだった。
副島の話は続く。
「あなたがどう考えているかは分からないし、問題の一つとして捉えているだけに過ぎない。けれど、わたしの魔法が効かなかったということは魔法使いか、魔法に耐性にあるかのいずれかとしか考えられないわけ。分かる?」
「……仮にそうだとして、だ。俺に何をさせたい?」
「あら、すんなりと認めるのね」
「認めるつもりはない!」
「でも、現にわたしの魔法にかからなかった……。いや、待てよ。でも今の魔法は効いているのよね? おかしな話……。普通、魔法に耐性があるならば、すべての魔法に耐性を持っていて、すべての魔法が効きにくいなんてことも大いに有り得る訳だけれど」
「だから、俺は関係ないんだって!」
「関係ない。そうかしら? わたしの話に付き合って貰うわよ。あんたもこれからわたしの『魔法書探し』に付き合って貰うんだから!」
「魔法書……なんだって?」
「あんた、わざと聞き逃したわよね? 魔法書よ、ま・ほ・う・しょ! ほんとは初日に遅刻なんてしたくなかったし、魔法使いだって教えることもするつもりは無かったのだけれど、魔法書を盗まれたから方向転換したの。おばあちゃんが書いてくれた、大事な魔法書よ。よくお店にもあるでしょう? 何十年つけ込んだ秘伝のタレ、みたいな。それに近いものよ」
「……言いたいことは分かるが、なんで俺も付き合わなくちゃあならないんだ?」
「魔法に耐性があるあなたなら、何か魔法を喰らっても問題無いでしょ。それに、人手は多い方が良いし。そうね、どうせなら部活動でも創部して部活動の時間を有効活用するってのはどうかしら。それなら案外簡単に見つけることができるかもしれないし、自分からやってくる可能性だってあるかもしれないわ」
「どんな部活を作るつもりだ?」
「魔法研究同好会。勿論、公にはわたしは魔法使いであるということは言わないでおくのよ。図書室の一部でも間借りすれば充分な土地と場所が手に入るでしょう?」
「顧問はどうするつもりだ。そんなこと言っても、そう簡単に認めて貰えるとは思えないし、不可思議な部活動の顧問をやってくれる人間がいるとは思えないが」
「同好会は顧問を不要とする、と書いてあるけれど?」
「どこに?」
副島は俺にあるものを突きつけてきた。
それは生徒手帳だった。そういえば生徒手帳には校則が書かれているんだったっけな。普段読みゃしないからさっぱり忘れていたけれど。
「さ、あとは図書室に間借りさせて貰えるかどうかを聞きに行くわよ!」
「聞きに行く、って今からか?」
漸く副島は俺の身体の自由を解放してくれた。
いつまで身体の自由を縛ってくるつもりだ、と言おうとしただけに、こいつ心が読めるんじゃあないか、なんて思っていたけれど、それはそれ、これはこれ。
副島は鞄を手に取って、、俺に声をかける。
「さあ、行くわよ! 先ずは図書室へ!」
……やれやれ。
普通ならこんな不可思議なことに関しては、無視を決め込むのが一般常識かもしれない。
だが、俺はそれを少しでも『面白い』とおもってしまったのだ。だから俺は、それに従うしかない。その興味を少しでも和らげるためにも、副島についていくしか手段がない、今はそう思うばかりであった。