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そう言って、副島は小瓶を一つ俺たちに見せた。瓶の中には黒い靄がかかっていて、それが何であるかははっきりとしない。しかしながら、それが今までに見たことのないモノであることは明らかだったし、それについての知的好奇心が満たされないと話にならない。
「なあ、副島。これはいったい……」
「それが、さっき言った『瘴気』よ。ああ、一応言っておくけれど瓶は開けないで置いてね。エネルギーが漏れ出してしまうから」
「漏れると……どうなるんだ?」
「そうね。簡単に言ってしまえば、悪影響を齎すことは間違いないかしら。人間にその瘴気が降りかかれば、途端にやる気が出なくなってしまう。一言で言えば鬱症状ね」
そんなひどいことになってしまうのか。
「だから、出来ることなら人間に触れないようにしなくてはいけない。まあ、これは自然の摂理だから、触れてしまったことについては仕方ないことよ。薬を使って瘴気を取り払うしかない訳だけれど」
成る程。つまり、鬱病の薬はその瘴気を取り払うために必要ということか。
「まあ、それがどこまで通用するかは分からないけれどね。所詮は医学。魔法の域に達している瘴気を完全に取り払うことは出来ない。だから鬱病はこうとも呼ばれている。……心の癌、とね」
「やけに、鬱病に詳しいじゃあないか。さては、知り合いにいるのかい?」
「そんなことはどうだっていいでしょう。わたしが話したいのは、瘴気を見つけたら絶対に触らないということ。それだけは確認しておきたいのよ。幾らわたしでも、メンバーを欠けさせたくない。同好会の会長としても、責任があるわけだし」
「そりゃあ、そうだろうな。責任というモノを少しは感じて貰わないと困る」
まあ、まさかそんなことを言い出すとは思いもしなかったけれど菜。
「……何が言いたいの?」
「何でも」
「いいえ、何か言いたかったに違いないわ。言いなさい。吐き出しなさい。すべて、隠していることを零にしなさい」
「いいじゃあないか、別に。決められたことでもあるまい。……それじゃあ、僕たちは瘴気を見つけたらどうするんだ? 流石に放置するつもりはないけれど、それとも放置しろと言うのかい、良心の呵責などどうでもいいと言わんばかりに」
「そんなことは誰だって言っていないでしょう。わたしは、瘴気を見つけたら触れるな、と言うことを言いたいだけ。瘴気を見つけたら、それは研究材料として持ち帰るわ。別にそこに置かれても無駄なモノだしね」




