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[2]-1


 鉄板のように焼けたコンクリートの坂道を歩きながら、俺は早く夏休みがやってこないかと嘆いていた。実際、そんなことを言ったところで暑さが和らぐはずもなく、俺としてはただ戯れ言を言うだけに過ぎないという点に留まった。

 だからといって、暑さを対策しないわけにもいかないので、俺は手で扇ぎながら、ひたすら道を歩いていた。坂道の上に高校を作るのが悪いし、その高校に進学を決めた俺も悪い。当初は自転車通学が出来ると思ったからこの高校にしたのに、蓋を開けてみれば、最初の一学期間は自転車での登校を禁じる、という文章を見ておったまげた。そんなことが通るのかということと、だったらもっと早く教えて欲しかったという気持ちで一杯になった。


「……ったく、どうせなら、箒で空を飛べたらいいのになあ……」


 空を眺める。そこには雲一つ無い青空が広がっていて――。


「……うん?」


 いや、それははっきり言って間違いだった。仮に物理学がひっくり返る理論が打ち立てられたとして、それを肯定出来るだろうか? 出来ないだろう。出来やしないだろう。出来るはずがないだろう。そんなくらいには、信じられないものが目の前に広がっていた。

 箒で空を飛ぶ、女子高生。

 そんなファンタジー小説でもあまり見たことの無いようなベタなそれが、浮いていた。


「はっ? いやいや、嘘だろ。そんなことあり得ない」


 俺は独りごちり、その方向を再度確認する。

 すると確かに未だ浮いていた。ふわりふわりと浮いていたそれは、まっすぐに西へ向かっていたのだ。

 そんなものを見たことがない、と言わんばかりに俺は目を丸くしていた。当然だ。魔法や魔術で無い限り、人間が空を飛べるはずがない。

 そしてその魔法や魔術を使える存在が一般世界に居る筈がない。それが俺の常識だった。

 何故、そうなっているのか。

 答えは単純明快。科学文明の上で、魔法師や魔術師はとかく生きづらいことを自らが証明してしまったためだ。俺からしてみれば幼少期に見た冒険活劇のようなわくわくさを失ってしまったために、非常に残念な結果と言わずにいられないのだが、しかしながら、実際に魔法を使う人たちがそう言ったのだから致し方ないと思うのも俺の考えだ。無理矢理に魔法師や魔術師を科学文明に『慣らそう』として失敗した事例は社会的にもたくさんある。

 だから、俺はこの社会に絶望しているし、悲観しているし、あまり期待は出来ていない。

 だって魔法や魔術がない世界なんて、楽しくもなんともないじゃあないか。

 そんなことを考える科学文明側の人間ばかりなら、もう少し魔法師や魔術師も住みやすい環境になるのだろうけれど。



 ◇◇◇



 一時間目を見事に遅刻してしまった俺は、廊下に立たされていた。このご時世、こんなことって有り得るのか? そんなことを思いながら、俺は廊下から見る景色をただ眺めるばかりだった。

 そんなとき、駆け足の足音が聞こえてきた。

 ははあん、感じからして俺と同じように遅刻した人間だな。しかし残念ながら一時間目は既に開始されていて、俺はクラスの視線を一斉に浴びて、その結果、外に出されて廊下に立ってろと言われている始末だったのを知らずに、やってきている。それはどうも面白いというか哀しいというか、笑うに笑えない。俺もこういう身分だからかもしれないし、クラスの面々も別に俺の遅刻癖を知らないわけじゃあない。先生によっては許してくれるけれど、今日は日本史が一時間目だったということをすっかり忘れていた。日本史の五位淵は時間厳守と言って何かと時間を厳しく縛りたがる人間だ。だから俺もあまり遅刻しないように努力していたわけだが、


「それにしても、箒で空を飛ぶ女子高生か」


 俺は朝見た景色を思い返す。流石にパンツまでは見えなかったけれど、良い景色だった。もしあの景色を体感出来るというのであれば、体感したいぐらいだが。高所恐怖症の人間がそれを希望するかと言われると話はまた別になるけれど、俺は別に高所恐怖症などではない。安心して欲しい。何がだ。


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