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「今日はフィールドワークをするわよ!」
突然そんなことを言い出したので、とうとう気でも狂ったかと思ったが、そんなことではないらしい。
「いい? どの世界にも魔素は多く含まれているの。今日はそれを実際に探して、魔法を使ってみせるわ。それがフィールドワークの真の目的よ!」
誰も今からフィールドワークをやるなんて一言も言っていないんだが。
「あ、一応言っておくけれど、拒否は認められないから。それくらい常識よね!」
どこの世界の常識なんだ、それは!
「……あんたに言ってるのよ、あんたに。さっきから何をごにょごにょ口にしているのか分からないけれど、どーせどうでもいいことを口にしているんでしょう? だったらわたしの命令に従った方が有意義だわ! ね、茅ちゃんもそうだと思わない?」
ナチュラルに茅さんに話題を振るんじゃあない。茅さんは魔法書をじっくりと読んでいるところじゃあないか。ちなみにその魔法書は副島が家から持ってきたものだ。決して汚してはいけないからね! と言っているが、だったら家から持ち出さなきゃいいじゃあないか、なんて思うのは俺だけだろうか。
俺はフィールドワークの中止を試みようとしたが、しかしそれは失敗に終わった。失敗に終わったというか失敗せざるを得なかったというか誰も止める相手が居なかったというか。
「いいですねっ、フィールドワーク! 魔法を実物で見たいのもありますし!」
茅さんのこの反応を聞いた後に、じゃあやっぱり辞めてくれなんて言い出せる訳があるまい。
そうして、俺たちはフィールドワークと題して外に出て行くのだった。
◇◇◇
廊下にて。
「おっ、ボート。お前、今日は部活か?」
ボートという渾名は気づけばあっという間に広まってしまっていた。理由は誰によるモノか、言うモノでもないだろう。
ちなみに声をかけてきたのは同じクラスの弥富だ。弥富という変わった名字だったので覚えているが、それ以外はただの普通の人間だ。正直言って、キャラクターで言うところの野比のび太的ポジション。……ってそれって主人公じゃあ無いか。
「ボートと呼ぶな、と言っただろ。それに今日は部活だ」
「フィールドワークよ! 魔法を使うためにね!」
「魔法なんて使える訳ないじゃんか。なあ?」
あのときの自己紹介を誰も覚えていないため、魔法を使えると知っているのは俺と茅さんだけになる。だからそれを聞くと失笑してしまう訳だけれど、まあ、それはあまり言わないでおこう。




