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 次の日。俺は普通通り目を覚まして、いつも通り道を歩いていた。毎日遅刻する訳にもいかないし、遅刻したところでメリットなど眠気が覚めるぐらいしかないから、普通の時間に登校するしかないのだった。


「おはよう、ボートくん」


 茅さんと再び出逢った。再び、と言っても昨日別れた曲がり角でばったり再会した、ってだけなのだけれど。もし遅刻しそうで走っていたら偶然ばったりどんとぶつかってしまうのだろうけれど、そこまでテンプレートな展開を迎えるつもりは毛頭無い。


「おはようございます、茅さん。……いつもこの時間なんですか?」


 ボートと呼ばれることについては諦めることにした。何度本名を紹介しても「わたしが名付けたんだから、崇高な意味があると思いなさい!」として聞く耳を持たないし、茅さんはそれを面白がって俺のことをボートくんとしか呼んでくれないし。

 かといってそれ以外のニックネームが思いつくかと言われると存外微妙であって、実はボートというニックネームは割と似合っているのでは無いか、と思ってしまうのが俺自身の考えだ。価値観と言い換えてもいい。いずれにせよ、その価値観を変えようとしたところで変えてくれやしないのがあの副島めぐみという女な訳だが。


「でも、あなたのことをきちんと思っている。ならそれでいいんじゃあないですか?」


 茅さんが俺に問いかける。


「そういうものですかね」

「そういうものですよ。もしあなたが、それを思っていなかったとしても、あの同好会は最早あなたと彼女が居ないと成立しない。あ、勿論その中にはわたしも入れて貰えると有難いのですけれど」


 当然だ。そのメンバーに茅さんが入らないと、この同好会は何度衝突を繰り返すか分かったものではない。


「まあ、あなたがどう思うか分かったことではないですけれど、別に、あなたが嫌なら拒否すればいいだけの話だと思いますし」

「そりゃあ、そうかもしれないですけれど……」

「拒否しないってことは、それなりの理由があるって話ではなくて?」

「……そうなんですかね。そうなのかもしれないですけれど、でも、あいつには困り果てていますよ」


 結局、そんな他愛もない会話をしていたら、あっという間に学校に到着してしまった。時間というのは有限だ。幾ら時間稼ぎをしたところでやがては目的地に到着する。これだけはどうにかならないモノかと思うけれど、そう思うとタイムマシンでも開発されない限り、時間の束縛からは解消されないのだろう。

 そして、茅さんとは学年も違えば靴箱の置かれている場所も違う。即ち、それはどういうことかといえば、俺と茅さんは玄関で別れることになる――ということだ。それは別に珍しいことでも何でも無いし、強いて言えば登校時の時間つぶしになれたことがとても良かったか、というぐらいか。

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