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「……で、その魔素というのはどこにでもあるのか？」
「まあね。無いと言うことは言われていない。魔素の存在しない空間を作り上げることは理論上は出来ても実際には不可能だと言われているわ」
「どうして？」
「だって魔素はすべて物体を構成する『モノ』と言われているから。日本語で言えば、単子。そういう存在なのに、どうやってそれを無しの空間に密閉することが出来るのかしら。わたしとしては、不可能だと思っているし、つまり魔法は完璧な存在の一つとも言われている」
「どうして？」
「だから言ったじゃあない。魔素は封印出来ない。つまり、魔素を排除出来ないのだから、魔法使いはどのような状態でも魔法を放つことが出来る。……これまで言えば、わたしの言いたいことが分かるでしょう？」
「科学で作られた拳銃やその他諸々は銃弾という残り弾数が決められているが、永遠にも近く存在している魔素を使う魔法が使える魔法使いは、無限に魔法を放つことが出来るから、か」
「ザッツライト。ボートも魔法の素質があるんじゃあない？」
「よしてくれ。俺はただの一般人でありたいんだ。そんなことを言われたところで、魔法を使いたくはないよ」
「そう？ どうして？」
「どうして……って。そりゃあ、人に事情だってあるだろ」
それを言いたくないだけなんだがな。
「言いたくないなら、今みたいにテレパシーを使ってくれても良いけれど」
「そのテレパシー、一方的なモノだろ！ 俺は絶対に使わないからな、それで話をするのは禁止だ！ 茅さんが会話に入れなくて困惑する姿を見たいのか！」
そう。俺は気づいていた。
俺の考えをテレパシーよろしく読み解くことが出来る副島だが、一般人はもう一人居る。
そう、茅さんだ。二人の会話に割り入ることが出来なくて、茅さんがあわあわしている様子なんてもう見ていられない。
「そう？ 茅ちゃんもずかずか入ってきてもいいのよ？ それとも、彼みたいにテレパシーを使う？」
「そのテレパシーは『心をのぞき見する』って言うんだ！」
「え、ええと……わたしは良いかなあ。二人の会話に入ることもしなくて良いし、二人が楽しそうに会話をしているのを見ているだけでとても楽しいし」
そうか？ というか、楽しそうな会話に見えることが驚きだ。はっきり言って、この会話は楽しくない。ちょっと怒りが入っている会話に楽しさが見えてくるか？ 答えはノーだ。
「……二人の会話を見ているのが楽しい、ですって？ 冗談じゃあない。こいつとの会話ははっきり言って無駄と言ってもいいわよ。過言では無いわ。だからこそ、一緒に居ること自体がおかしい訳だけれど。ま、それは偶然よね。一緒に居ることが出来たのは、偶然よ。偶然」
「最悪な偶然だな。神様とやらが目の前に居たらぶん殴ってやる」
「そんなこと言うから、神様に見捨てられたんじゃあない？」
「それは……」
……そうかもしれないな。はっきり言って。
二度と忘れてやりたい出来事が幾つも起きているのも、俺が神様に見放されているからかもしれない訳だ。
「と、取りあえず、授業の続きといきませんか」
空気の重さに気づいてくれたのか、茅さんは会話に参加して、授業の続きを要請した。
それを聞いた副島は茅さんが授業を聞きたいということについて、気分を取り戻したらしく、再び饒舌な授業が再開されるのだった。
「ありがとうございます、茅さん」
「いえいえ、これぐらいなら何度でも」
天使だ。本当に天使だ。
俺の中で今、茅さんの株が本格的に上がりまくっている。
そんなことを思いながら、俺は副島の授業を受け始めるのだった。
