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お人好し、と言ったところでそれが過ぎるのかもしれないな。はっきり言って、こんな茶番に付き合うのはこりごりだ。
かといって辞める選択肢があるかどうかといわれるとまた微妙であって、それは俺の選択肢に含まれてはいない。きっとそれは俺の中でも決められてしまっていることなのか、或いは魔法で誰かがそう誘導しただけなのか。
「……何よ、一応言っておくけれど、誘導なんてしたつもりはないからね」
「それぐらい分かっているよ。俺の意思でここに来た。多分お前に『魔法』で無理矢理にやられなかったとしても、入部届にはサインを入れていたかもしれないな」
まあ、それは決まってしまった今だからこそ言える、ただの戯言に過ぎない訳だけれど。
それにしても、祖母の書いた魔法書、ねえ。そんなものが実際に存在するとして、それをどうしてここに持ってきたのか、という話だ。読み解けていないことばかりだとか、様々な人に伝えるためには魔法書を見せることが一番だとか言っているけれど、冷静に考えて欲しい。重要なものを、それほど重要なモノを、どうして持ち歩かなくてはならないのか?
「あなた、いつまで言っているつもり? いい加減、魔法を使って『口封じ』してもいいのだけれど」
「お前さらっと恐ろしいことを口にしやがったな!?」
「……やっぱり、あなた、魔法が使えるのね」
言ったのは、茅さんだった。
茅さんはずっと半信半疑だったのだろうか。いや、そりゃあそうだろうよ。あまり魔法使いが一般世界にやってくることなんてありゃしないのに、それが目の前に突然やってきて、自分の祖母の魔法書を手に入れることを目的に『魔法研究同好会』なんて同好会を設営ツしようなんて言い出すんだからさ。そりゃあ、そう驚くに決まっている。
しかし、今驚くのかという点も浮かばれる。はっきり言ってもっと早く『魔法使い』については言及してくると思っていた。魔法使いなんでしょう? という直接的な疑問でも、魔法使いなのか? という間接的な疑問でも構わない。いずれにせよ、疑問は浮かぶはずだった。でも、その疑問を彼女は今まで取っておいたのか、或いは忘れていたのか、或いは考えることを放棄していたのか。いずれにせよ、このタイミングまで言い出すことは無かった。それが俺にとっては疑問の一つといってもしょうが無い話だった訳だ。
それを聞いていた副島は、きょとんとした表情で茅さんのほうを見る。
「何を突然言い出すかと思いきや……。ええ、そうよ。わたしは魔法使い。その眼鏡の謎を一瞬で暴いたところで何か気づいたのかな、とは思っていたけれど、意外と気づかれなかったという認識で良いのかな?」
「はっきり言わせて貰って、魔法に詳しいただの一般人だと思っていたわ。だって全然、魔法使いっていう感じに見えないんだもの」




