番外編(エリーヌ編-1)
「ユキノ~、飲みもの持ってきて~」
「はい、エリーヌ様」
タクトと別れてから、既に数百年経った。
私は、あれから使徒を持っていない。
理由は――私にあることのも分かっている。
最初の使徒であるタクトが優秀過ぎたこと。
良くも悪くも私と相性が良かったせいか、どうしても使徒選別の際に、タクトと比較してしまっている。
まぁ、私は使徒が居なくても、エクシズを含めて三つの世界を管理している。
これも全て、優秀な私だから成せることだ。
「どうぞ、エリーヌ様」
「ありがとう」
私の元で神の修行をしているユキノ。
彼女は優秀な神見習いだ。
これも優秀な私が教えているから、当たり前のこと。
「エリーヌ様。こんなに散らかして……片付けますね」
「うん、御願い」
「……モクレン様に見つかると又、叱られますよ」
「大丈夫だって」
優秀なユキノは、尊敬する私の身の回りの世話もしてくれている。
見習いとは弟子のような存在なので、弟子が師匠の世話をするのは当たり前のことだ。
「なにが大丈夫なんですか」
ユキノ以外の声がしたので、私が振り向くと仁王立ちしているモクレン様がいた。
「モ、モクレン様‼」
私は急いで起き上がるが……。
「本当に――」
モクレン様の小言が始まった。
私の隣でユキノも、モクレン様の小言を聞いている。
「エリーヌ、聞いてますか⁈」
「はい、もちろんです」
私は即答するが、話の半分も聞いていなかった。
「では、行きましょうか」
「えっ、何処にですか?」
私の言葉にモクレン様が頭を抱えて、大きな溜息を一つついた。
「これが終わったら、エリーヌは私の所まで必ず来るように」
「……はい」
私とユキノはモクレン様の後ろを着いていく。
移動した先は私も、よく知っている。
世界を管轄する部屋。
つまり、新たな神による世界の管理をする場所だ。
「ユキノ。貴女には、この世界を担当してもらいます」
「はい」
不安そうな表情を浮かべるユキノ。
私もユキノの気持ちが理解できた。
エクシズが最初の担当と聞いたときと同じ気持ちだろう。
「エリーヌ。サポートをお願いしますね」
「はい、分かりました」
ユキノが担当する世界は小さな世界だ。
小さいと言ったのは、私が担当している世界には、もっと大きな世界があるからだ。
エクシズと同等な大きさなので、最初に担当するには丁度良い大きさだと思う。
ただ、違うのは――。
「まだ、誕生して間もない世界です。それに知能を持った生命体は、まだ存在していません」
モクレン様が説明を始めた。
誕生したばかりということは、知能を持った生命体が誕生するまで、長い月日が必要となる。
私いや、同期でさえ前任者がいる世界を引き継いでいる。
誕生して間もない世界を、初担当する神など聞いたことが無い。
「モクレン様、質問をさせて頂いても宜しいでしょうか?」
「どうぞ」
「その……私たちが初担当になった時は、前任者がいた世界を引き継いでいました。ユキノのように誕生して間もない世界を初担当するのは、普通なのでしょうか?」
「いいえ、初めてのケースです。誤解のないように言っておきますが、ユキノの他にも同じように誕生して間もない世界を担当してもらっている神もいます」
モクレン様は、その後も私の質問に答えてくれた。
今まで、誕生して間もない世界は、ベテランの初級神もしくは、中級神が担当していた。
中級神の場合、引き継ぎ可能と判断すれば、初級神に引継ぎをする。
今回は今までとは違った取り組みをした場合、どのような進化を遂げるかの検証も兼ねているそうだ。
「でも……直接、世界への関与は出来ないんですよね?」
「エリーヌ。貴女は大事なことを忘れていますよ」
「大事なこと……ですか?」
私はモクレン様の言葉の意味を考える。
「それは、新規世界特権のことでしょうか?」
隣にいたユキノが答えた。
「その通りです。さすがは、ユキノですね」
モクレン様は、ユキノを褒める。
……新規世界特権? そんなの習ったかな?
私は必死で記憶から、新規世界特権について思い出そうとする。
しかし、全く思い出せない。
「ユキノ。復習がてら、間違っていないかをモクレン様に伝えて」
「はい、エリーヌ様」
自分が知らなかったことをモクレン様に悟れないように、咄嗟の機転で切り抜けようとする。
エリーヌがモクレン様に新規世界特権について、話を始めた。
新規世界特権。新しく誕生した世界にだけ行使することが出来る特権だ。
その特権は全部で四つあるが、その中から二つを選択することが可能らしい。
一つ目、自分の思うように地形の一部を変える事が出来る。
二つ目、気候を操作することが可能。
三つ目、存在している生命体から十種類を選択して、飛躍的に進化させる。
四つ目……自分の好きな生命体を番で三組だけ、世界に存在させることが出来る。
三つ目と四つ目は、どちらか片方しか選択できない。
ユキノの説明を聞いて、そんな話を聞いた気もするとしか思い出せないでいた。
「エリーヌ様。間違っていた個所はありませんでしたか?」
「えっ! うん……大丈夫じゃないかな」
不意打ち同然だったので、完全に動揺していた。
横目でモクレン様を見ると、私を凝視している。
完全に疑いの眼差しだった……この後、モクレン様に呼び出されているので、小言の時間が長くなるのだと思うと、憂鬱な気分になる。