923話 終活‐10!
俺とユキノ、シロの三人は王都に来ていた。
クロは相変わらずピンクーの指導をしている。
ユキノはヤヨイの相談の続きがあるということで、ヤヨイの所に行っている。
しかし、俺と結婚したら城に自由に出入りできないと聞いていたのだが……。
シロには自由に行動してもらい、何かあれば呼ぶつもりでいる。
俺はライラを探す。
ライラも冒険者なのでクエストを受注して、王都にいないかも知れない。
「あれ、タクトじゃん」
城の中を歩いていた俺は名前を呼ばれたので、振り返る。
「なんだ、コスカか」
「なんだとは失礼ね」
「ライラが、何処にいるか知らないか?」
「ライラなら、ここ数日はギルドでクエストを受注しているわよ。タクトなら情報を教えてくれるんじゃないかしら」
「そうか……ライラは強くなっているか?」
「当り前でしょう。私が教えているのよ‼」
コスカは自信満々に答えた。
悔しいが、魔法の才能は自分より上だと、ライラのことを認めていた。
ただし、精神面が弱いため、どうすれば強くなるのか模索中らしい。
「なにか良い案ない?」
「精神面を鍛えるのは難しいだろう。結局は、本人次第だからな」
「そうなのよね……」
コスカもライラの師匠として、ライラの指導に悩んでいるようだった。
「まぁ、なにか良い案でも閃いたら、教えて頂戴」
「あぁ、分かった」
コスカも忙しいのか、俺との会話を簡単に切り上げて去って行った。
俺はギルド会館に移動する。
王都のギルドは冒険者が多く、とても賑わっていた。
俺のことを知っている冒険者は、何も知らない冒険者に、俺のことを小声で説明している。
「あの人が!」
「思っていたよりも小柄だな」
「本人に会えるとは!」
本人たちは小声で話しているつもりのようだが、俺の耳に言葉が飛び込んでくる。
俺の向かう先から人が居なくなる。
そして、誰も近寄って来ない。
尊敬の感情よりも、恐怖の感情が勝っているのだろうか?
「何事ですか‼」
冒険者たちの様子がおかしいと感じたのか、サブマスのヘレンが姿を現した。
一旦はヘレンの姿を見た冒険者たちだったが、すぐに俺のほうを見直した。
「……貴方でしたか」
俺の姿を見たヘレンは、面倒臭そうな仕草をする。
どうやらヘレンの中で俺は、トラブルメーカーに認定されているようだ。
「冒険者として最強と言われている貴方がわざわざ、このギルドまで足を運ぶとは何用でしょうか?」
「あぁ、ちょっとライラに用事があってな」
「ライラですか?」
ヘレンがサブマスとはいえ、冒険者一人一人のクエスト内容までは覚えていない。
「とりあえず、一緒に来て頂けますか?」
「あぁ」
俺は頷く。
この場にいては、騒ぎが収まらないと判断したのだろう。
奥の部屋に案内された俺は、一人で待つ。
暫くすると、ヘレンが一枚の紙を持って部屋に入ってきた。
「最初に聞きますが、ライラに何かあったのですか?」
「いいや。顔を見に来ただけだ」
「……本当ですか?」
ヘレンは俺を疑っていた。
しかし、すぐにその疑われた理由が判明する。
ライラはクエストを単独で受注していた。
単独に拘る理由は、俺が単独だからだと言ったそうだ。
そのことを聞かされた俺は驚く。
もしかしたら、悪影響を与えているのではないか?
ものすごく不安な気持ちになった――。
「基本的に単独のクエストは、難易度は低いのですが――」
ヘレンはライラが受注したクエストの内容を教えてくれた。
それは『ブレードウルフの討伐』だった。
サーベルウルフより大型の魔獣だが、群れで行動をしない。
しかし稀に、ブレードウルフを慕うサーベルウルフが共に行動することもあると聞いたことがある。
ヘレンの表情からすると、ライラのことを心配しているようだ。
「ライラが戻ってきていないのか?」
「はい。ただし、クエスト期間は、まだ三日ほど残っています」
「場所的に戻ってくるまで、どれくらいだ?」
「移動で一日半くらいね」
「近くでサーベルウルフの群れを見た報告でもあったのか?」
「そのような報告はありません」
ヘレンの表情から、俺がライラのことを訪ねたことが無関係だと思っていないようにも思えた。
かえって警戒させてしまったようだ。
「ありがとうな」
俺はヘレンに教えてくれた礼を言う。
「ライラの所に行くのですか?」
「あぁ、とりあえず様子見に行くつもりだ。手を貸すつもりはない」
「分かりました」
ライラが自分で受注したクエストだから、俺が手を貸すのはライラのためにはならない。
不測の事態でもあれば別だが――。
しかし俺は、ライラがブレードウルフ討伐のクエストを選んだのは、以前にソニックウルフに手も足も出ずに倒されてしまったことを、今でも後悔しているのでは? と気になっていた。