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920話 終活‐7!

「……御主人様」

「どうした、シロ?」

「やはり、四葉商会の方々には、御教えした方が良いのでは……」


 シロは俺に向かって、自分の意見を言うのを躊躇っていたが、俺の気持ちを察して敢えて、話したのだろう。


「そうだな……」


 正直、俺は悩んでいた。

 言わないと決めたにも関わらず、自分たちだけ知らなかったと知れば、マリーとフランはどう思うだろう。

 前世で俺の死後の映像を見せられた時の後輩たちの顔が浮かんでいた。

 言わなければ怒るし、言っても怒る。

 分かっているからこそ悩んでしまう。

 既に四葉商会は俺の手を離れて、マリーを中心に動いている。

 俺の記憶が消えた際も、大きな問題は起きていない。


「気分を害したら申し訳御座いませんが、私は御二方とも長く接しております。個人的に、何も言わずに居なくなられるかと思うと――」


 シロが、ここまで自分の意見を言うのは珍しい。

 この世界で一緒に過ごしたマリーとフランだからこそ、シロも二人に肩入れしたくなるのかも知れない。


「そうだな――文句を言われるのは慣れているし、これが最後だと思って叱られるか」

「御主人様。ありがとうございます」


 シロが礼を言う。


 俺はマリーとフランの二人に連絡を取り、会う約束をする。

 ユキノはヤヨイから相談があるということで、ゴンドの部屋で待ち合わせをしている。

 アルとネロもいるので、護衛の心配は無いので、シロを一緒に連れていくつもりだ。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 待ち合わせ場所は四葉商会だ。

 俺が行くと既に二人は座って待っていた。


「なにか面倒事?」


 マリーが不躾に聞いてきた。


「そんなに構えるなって、ただの報告だ」

「……ただの報告って、絶対に違うでしょう」


 フランも疑っていた。


「とりあえず、ここではなんだから、移動するか?」

「何処に?」

「いや、決めていないが上には誰かいるのか?」

「いいえ、誰もいないわよ。聞かれたくないんだったら、私の……前にタクトが使っていた部屋でもいいわよ」

「そうだな……最上階の部屋にするか」


 俺がいなくなってから、マリーが俺の部屋を使っている。

 自分の部屋でなく、俺の元部屋と言い直したのは、マリーなりに気を使ってくれたのだろう。


 俺はゆっくりと階段を上りながら、ついでに各部屋の様子を見て回った。

 もう一度、見られる保証がなかったから、目に焼き付けておきたいと思った。

 懐かしそうに部屋を見て回る俺に、フランは最近の出来事をいろいろと話してくれたが、マリーは俺に違和感を感じているのか、なにも言わずにいた。


「綺麗に片づけてあるな」

「あたりまえでしょう……ほとんど、寝るだけだから散らかすことがないだけよ。下から飲み物でも持ってくるわ」

「あぁ、それなら俺が持って来たから大丈夫だ」


 俺は【アイテムボックスから】、飲みものと茶菓子を机の上に置く。


「そう……じゃぁ、座りましょうか」


 テーブルとイス。

 これは新たにマリーが買いそろえた物なのだろう。

 部屋とマッチしている。センスがいい。


「それで話って……なに?」

「結論だけ先に言うが……俺、もうすぐ死ぬから」


 長々と説明をするよりも、先に結論を述べた方がいい。

 これは社会人の時のも言われたことだ。

 相手に伝えるべき事を先に言って、それから説明をする。

 まさか、自分の死に関してプレゼンのようなことをするとは、思ってもみなかったのだが――。

 呆気にとられるマリーとフランだったが、先にフランが笑い始めた。


「またまた、タクトったら、そんな冗談を言うためだけに私とマリーを呼んだの」


 フランはまるっきり信じていない。

 反対にマリーは俺を睨んでいた。


「フラン。冗談じゃないわよ。タクトが言っていることは本当よ」

「マリーまで……嘘よね?」

「悪いが本当だ」


 俺が真剣な表情を崩さないことで、フランにも本当だと伝わる。


「元気なあなたが、どうして死ぬのよ。あなた、魔王なんでしょう?」

「まぁ、突然死ってやつだな」

「……エリーヌ様の御告げなの?」

「いいや、契約のようなものだな。要するに契約切れだと思ってくれ」

「御主人様。その言い方は語弊があります」

「そうか?」

「はい。まるでエリーヌ様がご主人様の命を強制的に奪うようにも聞こえます」

「確かにそうだな。まぁ、エリーヌは関係ない。もっと、別の話だ」


 シロが誤解を生まないようにと、俺をフォローしてくれる。


「……ユキノ様は知っているの?」

「いや、知らない。このこともユキノには知られたくないから、絶対に秘密にしておいてくれ」

「そんな……ユキノ様が可哀そうじゃない‼」


 フランは声を荒げて立ち上がった。

 マリーとフランは、ユキノが俺より先に死ぬことを知らないので、俺が酷い奴に思えたのだろう。


「言わない方がいいこともある。その時が来たら、マリーとフランが見て、俺の判断が正しかったかを見極めてくれ」

「で……でも‼」

「フラン!」


 マリーがフランの言葉を遮る。


「タクトが頑固なのは知っているでしょう。これ以上、何を言っても無駄よ」

「……マリー」


 フランを座らせるマリーだったが、その目は冷たく光、自分の気持ちを抑え込んでいるようにも思えた。

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