909話 モクレンとの面談!
「やはり、来てくれましたね」
モクレンは俺が来ることを確信していたような反応をする。
「私が来る事が、分かっていたのですか?」
「はい。そのためにエリーヌに寿命を設定してみました」
「それは――」
俺は言いかけた言葉を途中で止めた。
なぜなら、それはモクレンが意図的に俺と二人になりたかったということなのだろう。
「エリーヌには聞かれたくないってことですか?」
俺は言いかけて止めた言葉の続きを話す。
「そうね。ただし、語弊があるわね。正確には私と貴方の面談? とでも言うのかしらね……」
「面談――ですか?」
俺の……いや、エクシズの担当神であるエリーヌのことを聞くということなのだろう。
しかし、俺の行動が読まれていることには、いい気分ではない。
「正直なところ、エリーヌはエクシズでどうでしたか?」
「どうとは?」
「言葉のままよ」
「モクレン様も、エリーヌのエクシズでの行動は見ていたのですよね?」
「えぇ、一部ですが監視していましたよ。私の主観でなく、貴方の目から見たエクシズでの振る舞いを教えて頂ければいいのです」
モクレンの言葉を考える――。
「ひとつ……聞いても、いいですか?」
「はい、どうぞ」
「他の世界でも、使徒から同じようなことをしているのですか?」
俺の質問に一瞬だが、モクレンの表情に変化があった。
「はい、同じように面談をしていますよ」
「そう……ですか」
「もちろん、全員ではありません」
「全員ではない?」
「使徒を持たない神には、面談が出来ないですよね」
「たしかに……そうですね」
「使徒である貴方は知らないでしょうが、使徒を持つのは神でもかなり難しいことなんですよ」
「……そうなんですか?」
モクレンの話を聞きながら、ガルプは何人も使徒をエクシズに送り込んでいるので、モクレンの言葉に信憑性がなかった。
「……信じていませんね」
俺の表情を見て、なにかを察したのか不機嫌そうにモクレンは話す。
それから、モクレンは神と使徒について話し始めた。
使徒になるのは誰でもいいわけでは無い。
担当神には知らせていないが、相性というものがあるらしい。
俺がエリーヌの使徒に選ばれたのは偶然でなく必然とのことだった。
実際、エリーヌと同じ担当神でも使徒を携えているのは……半数らしい。
使徒を携えているだけでも、エリートの類になるそうだ。
エリーヌが自分のことを”エリート”と言っていたのは、あながち嘘ではなかったようだ。
使徒を見つけるのも、ひとつの才能らしい。
モクレンから聞いても、俺的には今ひとつ信じられなかった。
「その、エリーヌ……様は、エリートなんですか?」
「えぇ、エリーヌは同期では圧倒的に優秀よ。もっとも、貴方の功績が大きいですけどね」
「私の……ですか?」
「えぇ、エリーヌと貴方の相性が、とても良かったことに加えて、貴方がエリーヌの予想以上に優秀だったからでしょうね」
モクレンの表情は、不敵な笑みを浮かべているようにも思えた。
「それで、貴方から見たエリーヌの感想を聞かせて頂けますか?」
「そうですね――」
俺は考える。
別にエリーヌの印象を悪くすることを言う必要はないが、良いことを言うこともない。
「他の神はヒイラギ様やモクレン様しか知りませんので、神の印象が分かりませんが……神とは思えないくらいに、いい意味で単純ですね。あっ、純粋という意味です」
「そうですか。何か心配事でも?」
「私の思い過ぎかも知れませんが、純粋がゆえに傷付くことも多いのかと……」
俺が神のことを罵った際に、エリーヌは泣きながら反論してきた。
その表情が俺の頭から離れないでいた。
「優しいのですね」
「いえ……」
「私が聞きたい答えとは少し違いますね」
モクレンが困ったように笑う。
その表情を見て、俺の回答が違うのだと気付く。
「エクシズの担当神として、エリーヌは相応しいですか?」
回りくどい質問をせずに、望む回答が得られるようにモクレンが問い掛ける。
「はい。エリーヌがエクシズの担当神で良かったと思っています」
俺は即答する。
その言葉に嘘はなかった。
ポンコツで腹黒な女神だが、悪い女神ではないことは誰よりも知っている。
「そうですか、その言葉を聞けて嬉しいです。ありがとうございます」
笑顔のモクレンを見ながら、同じ言葉をエリーヌに言ったら一体、どのような反応をするのだろうを考える。
エリーヌと別れる時には、きちんと礼を言おうと思った。
モクレンは、残りの時間を楽しむようにと俺に告げて、中級神モクレンとの面談を終えたのだった。