908話 エリーヌからの報告!
「――ということで、お別れになります」
エリーヌが突然だが別れることになったと、真剣な表情で話す。
ふざける仕草は無かった。
「そんな――」
想像通り、ユキノは大きなショックを受けていた。
部屋には俺とユキノ、それにシロとクロ、アルとネロ。
少数の関係者のみだ。
アルとネロは表情にこそ出さないが、毎日のように遊んでいた相手がいなくなるので、寂しいのだと思う。
ただ……長年、生きてきたアルとネロにとっては、何度も経験をしていることなので、覚悟はしていたのかも知れない――という考えが、頭を過ぎった。
涙を流すユキノをエリーヌが慰めている。
別れの話をしただけで、これだけなくユキノ。
もし、別れの時ユキノが、どれだけ悲しむのかを考えると心配になる。
ユキノはエリーヌとの残り少ない時間を一緒に過ごそうと話すが、話を聞いていたエリーヌは困惑していた。
少し前であれば、普通に喜んでいたはずなのに一体――。
「なにか悩んでいることでも……あるのか?」
俺はエリーヌに、それとなく話し掛けると、少し時間を空けて口を開いた。
「眷属その……いいえ、ピンクーに会いたい」
「ピンクーにか?」
「うん。このエクシズでピンクーに会うことに、私的には意味があると思っているの」
エリーヌなりに、エクシズで過ごす時間が少ないことを意識したことで、自分の眷属であるピンクーに会ってみたいと思っていたようだった。
しかし今、ピンクーが何処にいるのかを俺は知らない。
エリーヌもエクシズにいる限り、ピンクーの居場所を知るのは難しいだろう。
「御主人様。私たちが探してきます」
シロがクロと二人で探してくれると、嬉しいことを言ってくれた。
俺が探すよりもシロとクロの方が適任だ。
「悪いが……頼めるか?」
「はい」
「お任せください」
シロとクロは返事だけすると早速、行動に移したのか部屋から姿を消した。
「……間に合うかな?」
不安そうにエリーヌが俺の顔を見る。
「シロとクロだったら、何とかしてくれるだろう」
俺はエリーヌを勇気づける。
ふと、ユキノに目を向けると先程以上に、憔悴している。
一度にいろいろなことは起きたからだろう。
「ユキノ、少し休むか?」
「ありがとうございます。でも……」
ユキノの視線はエリーヌに向いていた。
「そうだね。話したいことは話したし……ママと一緒に休むよ」
エリーヌは自分の中のスイッチを切り替えたのか、俺とユキノの娘という設定に戻した。
「行こうか、ママ」
「はい!」
ユキノは嬉しそうにエリーヌと部屋を移動する。
「思ったよりも早かったの」
ユキノとエリーヌがいなくなったのを確認すると、アルが口を開く。
「あぁ、俺も驚いている」
アルはエリーヌの突然の研修終了に疑問を感じているようだった。
今までのガルプやアデムの所業から、神というもの自体を信じていないのだろう。
ネロもアルの発言に頷いてはいたが、考えずに相槌を打っているようにも思えた。
「それよりも……」
「あぁ、俺も気付いた」
それはエリーヌの寿命。
この世界に存在していることが寿命と考えれば、残り少ない。
逆に神だとすれば、寿命という概念がないはずだ。
しかし、俺とアルが確認したエリーヌの寿命はユキノと同じくらいだった。
それが何を意味しているのか……。
「考えておっても仕方あるまい。お主はモクレンと言う神と話が出来るのじゃろう? エリーヌのいない今であれば聞いてみるのも、一つの手じゃろう」
たしかにアルの言うとおりだ。
もしかしたら、エリーヌに秘密にしていることでもあるのか?
アルの指摘に俺は考えを改めた。
俺の勝手な思い込みが、なにか重要なことをも見落としているかも知れなかったからだ。
しかし、モクレンがそのようなことを考えているとは思えない。
だからと言って、アルの考えを一蹴出来るほどの自信もない。
俺はアルの提案通り、モクレンに話をしてみようと思い、【神との対話】を発動させた――。