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904話 小賢しいエリーヌ!

 エリーヌが、なかなか泣き止まなかった。

 すすり泣くエリーヌの声だけが、部屋に響き渡る。

 俺は黙って、エリーヌを見ているしかなかった。


(ん?)


 エリーヌが、涙を拭いているハンカチに気付く。


(あのハンカチって――)


 俺がこの世界(エクシズ)の転異される前に、泣きじゃくるエリーヌに渡したものだ。

 まだ持っていてくれていたことに驚く。


「そのハンカチ、まだ持っていたんだな」

「うん。私にとっては大事なものだからね」


 エリーヌは、少しだけ笑顔になる。


「タクトが私にくれた最初のプレゼントだし、私のシンボルマークの基になった四葉が刺繍されているしね。大事にしているよ‼」


 エリーヌは言い終わると、ハンカチで鼻をかんだ。

 俺とエリーヌの大事の観念が違うのだろうか?

 少しだけだが、複雑な思いになる。


「でも、本当に……ここからだったんだよね」


 くちゃくちゃになったハンカチを感慨深そうに見て、エリーヌは真剣な表情に変わる。

 よく涙や鼻水まみれのハンカチを見ながら、そんな真剣なことが言えるのだと感心する。

 それから、お互いが最初に会った時の話を懐かしくする。

 ちょっとした思い出話だ。



「今、戻りました」


 ユキノがシロとクロを連れて戻ってきた。

 思っていたよりも、エリーヌと語り合っていたことに気付く。


「ママ~‼」


 帰ってきたユキノを見ると、エリーヌは一目散にユキノの所へ走っていった。


「ただいま、エリーヌちゃん」


 ユキノは優しくエリーヌに話し掛ける。


「ママ~、パパが虐める~」


 涙目でエリーヌに訴えかけた。


(コイツ‼)


 エリーヌからは見えない角度で俺に復讐でもするかのように睨んでいた。

 ユキノに対して、エリーヌは先程までの話を誇張して、自分に都合のいいように変換して話す。


「タクト様。エリーヌちゃんを泣かせてはいけませんよ!」


 一通り、エリーヌの話を聞いたユキノは、優しく俺を叱る。


「……すいません」


 俺は素直に謝る。

 俺に反論の場は与えられなかった……が、この状況で反論しても、俺の立場が悪くなるだけだと感じていた。

 前世で先輩が、「家に居場所がない」と冗談交じりで言っていた言葉が頭に浮かんだ。

 母親と子供の絆は、俺が思っているよりも強かった。

 俺も幼少時代はそうだったのだろうか?

 【恩恵】の代償として、幼少時代の記憶が無い俺にとっては思い出すことが出来なかった。

 謝る俺を嬉しそうに、エリーヌは笑みを浮かべながら見ていた。

 エリーヌの性格を知っているので薄々、気付いていたが……やはり、確信犯のようだ。


「それよりも、土産は用意できたのか?」

「はい」


 俺は強引に話題を変えると、ユキノは即答した。


「何を用意したんだ?」

「うふふ、それは内緒です」


 悪戯っぽく笑いながらエリーヌは答えた。

 シロとクロを見るが表情を変えない。

 どうやら、ユキノに口止めされているようだった。

 まぁ、ルーカスやイースの好みを知っているユキノが、的外れの土産を買うとは思っていないので、これ以上の詮索はしない。


「では、エリーヌちゃんも御着替えをしましょうね?」

「……着替え?」

「はい」


 話が噛み合っていない。

 多分、エリーヌは今、着ている服以外持っていないはずだ。

 しかし、ユキノは別の服があると思っているのだろう。


「エリーヌ。お前、それ以外の服を持っていないんだろう?」

「うん」


 俺は会話を成立させるために、話しに入る。

 ユキノも俺の言葉で、エリーヌが今着ている以外の服を持っていないことに気付く。

 しかし、エリーヌが今、着ている服でルーカスと会っても変ではないと思う。


「ではエリーヌちゃんは、そのままの服で行きましょう」

「うん、ママ」


 ユキノも平民の生活に慣れようと努力していると思うが、いろいろとギャップがあるので、ユキノ自身も苦労しているだろう。


「では、行きましょうか」

「……ユキノは着替えないのか?」

「はい。それが何か?」

「……国王たちに会うから、それなりの服に着替えるんじゃないのか?」

「いいえ、このままですわ」


 ……今度は、俺とユキノの会話が噛み合わない。


「御主人様。ユキノ様は、エリーヌ様を紹介するのに、綺麗な服装で紹介したかったのではありませんか?」

「そうなの?」


 シロが見かねたのか、ユキノの気持ちを代弁してくれた。

 俺は驚いて、ユキノの顔を見ると、笑顔で頷いていた。


「可愛いエリーヌちゃんを、より可愛い姿で御父様や、御母様にお見せしたかったんですけど……」


 ユキノはエリーヌが持っている別の服が、今着ている服よりも可愛いと想定して話している。

 俺は「ユキノらしい」と思い、ユキノに気付かれないように少しだけ笑った。

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