891話 シーランディアでの戦闘ー3!
ネロは楽しそうに攻撃をしながら進んでいく。
たまに道を外れることがあるので、俺が案内をしていた。
少し遠くにある山だが、山の中腹あたりから、飛び立つ蜂人族を発見する。
幾つもの出入口があるので、あそこが蜂人族の巣なのだろう。
しかし、俺の【魔力探知地図】は、その山にマークが集中してる。
山の上下で蜂人族と蟻人族は、棲み分けしているのだろうか?
長年、争いを続けている種族が、一つ屋根の下ではないが、そんな近距離に巣を構えることに違和感を感じた。
それに、蜂人族と蟻人族の判別が曖昧になっていた。
アルの気付いた触覚の曲がりで、辛うじて蟻人族と判別は出来ている感じだ。
数で言えば、この場にいる八割が蟻人族になるのだが……。
これ以上、俺たちに突破されたくないのか、必死の抵抗を見せる蟻人族と蜂人族は、ネロの攻撃で倒されると同じいや、それよりも早くネロを囲おうと集団で攻撃をくり返していた。
種族関係なく、自分たちの巣を守ろうと必死になっている。
集団での戦いは、ネロに分がある。
自分の血で、面白いように敵を駆逐していく。
殺戮ショーでも見ているようだった。
「あの馬鹿は……」
ネロの戦いを見ていたアルは、苦虫を嚙み潰したような表情をしていた。
「気になることでもあるのか?」
「相手は蟲じゃ」
「あぁ、そうだな……」
アルが俺に何を言いたいのかが分からなかった。
「ネロの【操血】が使えん相手というわけじゃ」
「ん?」
俺が眉をひそめると、アルは小さくため息をつきながら話し始めた。
「あやつが使っておるのは、自分の血じゃ。人族や魔族と戦う際は、相手の血を利用しながらの戦い方が、ネロの真骨頂なのじゃ。それなのに後先考えずに、あのような戦い方をしておれば、いずれ貧血にでもなるじゃろう」
「ネロが貧血?」
吸血鬼族と貧血は、イメージしやすかった。
しかし、それがネロだと思うと――俺は少しだけ首を傾げた。
「徐々にじゃが、自分の血が消耗しておる。しかも、あやつは殺した相手についた自分の血を回収せずに、ひたすら進んでおるからの」
俺は周囲を見渡すと、確かに蟻人族や蜂人族の体液に交じりながら、ネロの赤い血が広がっている。
「大丈夫なのか?」
「どうじゃろうな。久しぶりに楽しく戦えておるので、忘れておるのじゃろう。しょうがない奴じゃの」
アルは小さくため息をつくと、拳を繰り出す構えをする――と、すぐに拳を前に出した。
空気が割れる音と衝撃がネロに向かっていた。
ネロはアルの攻撃に気付くと一瞬、アルを睨んで体を回転させて、アルの攻撃を避けた。
「アル~‼」
ネロはアルを睨んでいた。
蟻人族や蜂人族に背を向けていたが、ネロから飛び出る血の棘は、確実に敵を仕留めていた。
「ネロ、血を使い過ぎじゃ! いつぞやのように倒れるぞ‼」
アルの言葉にネロは、何かを思い出したのか、バツの悪そうな表情を浮かべる。
「分かっているの~‼」
ネロはアルに向かって叫んで、俺たちに背を向けた。
その後のネロは、得意の【操血】を最低限に使用して、攻撃を始めた。
「……やれやれ」
ネロが冷静さを取り戻したのを確認すると、少し嬉しそうな顔をした。
俺はアルに、ネロの昔のことを聞こうかと思ったが、ネロが聞かれたくないことかも知れないと思い、聞くのを止めた。
しかし、アルの言う通りなのか、ネロの動きに精彩さが無くなってきた。
「ネロ、そろそろ妾と変わるか?」
「まだ、戦うの~。アルは、そこで師匠とお喋りでもしているといいの~」
「そうか。タクトが、疲れたお主のために血を吸わせてやると言っておるぞ」
「アルと変わるの~」
アルとネロの会話を聞きながら、俺はそんなことを言っていない。
しかし嬉しそうに全力疾走で走ってくるネロに向かって、そんなことを言えるわけがない。
ネロは俺の所に来る早々、右手にかぶりついて美味しそうに血を吸い始める。
同時に、辺りに吹き飛んでいた血がネロの元へ、掃除機で吸われたかのように戻ってきた。
俺の血を吸いながら回収作業をしていたようだ。
俺の右手をフランクフルトのようにかじったままのネロと歩く。
ネロと交代したアルだったが、簡単に倒せていない様子だった。
アルが手こずっているとは考えられない。
ネロ同様に遊んでいるのだろうか?
目を凝らしてみると、敵の攻撃を紙一重で避けていた。
アルの表情は遊んでいるようには感じられなかった。
まるで何かを謀っているかのようにも見える。
数分間の戦いの後、アルは周囲の敵を一瞬で殲滅させた。
その戦闘力に俺は驚く。
「タクト‼」
アルは俺を呼び寄せる。
蜂人族や蟻人族は、アルの攻撃力に脅威を感じたのか、距離を取っていた。
「どうした?」
「こやつら、種族が違うと言っておったが、意思を共有しているかのように連携を取っておるぞ」
「……それは、間違いないのか?」
「妾を誰だと思っておるのだ‼」
なぜだか、アルに怒られる。
アルなりに考えながら戦っていたようだ。
子供らしい一面もあるが、やはり長年生きてきただけあり、しっかりした一面も持ち合わせている。
ネロも同じなのだが、アルに比べれば若干、子供っぽいと思いながら、俺の腕から血を吸うネロを見る。