888話 シーランディア突入!
シーランディアの周りを半球体のようなもので覆っているのか、徐々に視界が悪くなる。
この半球体のようなものが、ロッソの封印なのだろう。
封印が解ける前にブイを用意する必要がある。
目の前のシーランディアは完全に真っ白で何も見えなくなっていた――。
「そろそろじゃな」
俺がブイの用意をしようとした時、アルが言葉を発した。
「そうだな」
俺は頷き、ブイに【結界】を施す。
【魔法付与】を施していないはずなのに、魔法を施せるブイの構造が少し気になりながら、作業を終える。
「シロ、クロ‼」
俺の声に反応して、シロとクロがブイを持って姿を消す。
その間も、シーランディアの視界は悪くなっていく。
――数分後。
シロとクロがブイの配置を終えて戻ってきた。
これで、俺たちはブイの効力が消えるまで、【結界】の外に出ることは出来ない。
「主。海底を移動する者までは、ブイの効力が及ばない可能性が高いです」
「……分かった」
俺がエリーヌから、今回用にと授かった【魔法探知地図】を改良してくれたことで、蟻人族と蜂人族の場所が分かる。
結界を抜ける者がいれば、シロとクロに場所を教えて対応してもらうしかない。
大気が震える……いや、破壊音のような耳鳴りがした。
同時に、シーランディアの姿が、はっきりと視界に映る。
「戦闘開始だ‼」
俺とシロ、クロは陸地へと移動する。
アルとネロは空中で待機だ。
封印が解けて間もないのか、蟻人族や蜂人族の姿は見えない。
【魔法探知地図】には、おびただしい数が表示されている。
仮死状態の蟻人族や蜂人族を、俺たちは駆逐していく。
数分後、仮死状態から復活した蟻人族と蜂人族に出会う。
因縁の種族なので、共倒れになってくれればと思ったが、俺たちに向かってきた!
俺が攻撃をする前に、シロとクロが攻撃を仕掛ける。
頭部と胴体が千切れても、体は戦おうと動いていた。
念のため、頭部を完全に破壊して、胴体も細かく切り刻む。
先程の仮死状態の蜂人族や蟻人族は、死んだのだろうか? と疑問を感じた。
俺が悩んでいると、クロが「死んでおります」と答えてくれた。
多分、シロとクロが再生不可能なくらいに処理してくれていたのだろう。
俺たちの周りに蜂人族と蟻人族が集団で攻撃をしてきた。
完全に俺たちを敵だと認めたのだろう。
しかし、蜂人族と蟻人族が共闘していることに違和感を感じる。
種族ごとの連携でなく、蜂人族と蟻人族が上手く連携を取っていたからだ。
上空でもアルとネロが蜂人族と戦っているのが分かる。
空が蜂人族の集団で曇天のようになっていたからだ。
アルとネロも、前回のシーランディアの戦いを思い出したのか、きちんと戦闘をしていた。
「ノッチ‼」
「俺様の出番かい」
地精霊のノッチを呼び、海岸線沿いの地形を変化させて欲しいからと頼む。
少し高い壁のようなものを作ってもらい、簡単には島から脱出できないようにする。
「じゃ、行ってくるか!」
「ちょっと待ってくれ」
早速、移動しようとするノッチを俺は止める。
「ホオリン‼」
「はいはーい!」
陽気に登場する火精霊のホオリン。
「シロ、そろそろ頼めるか?」
「はい、御主人様」
「ホオリンとノッチは、シロに従って動いてくれ」
「分かった」
「ノッチとなら、別にいいよ」
シロとノッチ、ホオリンたちは姿を消す。
俺はシロとホオリンにも、別の任務を頼んでいた。
ある程度、俺たちが島の内部に来た時点でノッチに島の周囲に壁を作ってもらう。
その後、島の周囲に火を放つつもりだった。
このシーランディアを焼け野原にすることも、モクレンからの依頼に含まれている。
殲滅したあとに焼け野原にするのも、戦闘中に焼け野原にするのも大差は無い。
このシーランディアには蜂人族と蟻人族以外は生息していないことは分かっていたので、躊躇はしなかった。
「クロ。アルとネロの様子を見ていてくれるか?」
「承知致しました」
全体の様子を確認する必要があったのだが、俺は戦闘をしているため、クロに頼むしかなかった。
戦況が変われば、作戦を変更する必要もあったからだ。
戦いながら、蟻人族と蜂人族がエルドラード王国やオーフェン帝国、シャレーゼ国に現れたらどうなるか? と考える。
一匹? でもかなりの戦闘力だ。
冒険者ランクで言えば、ランクAランク以下B以上だろう。
しかし、集団での攻撃ともなれば――。
女王を倒さなければ、増え続ける蜂人族や蟻人族に対して、戦力が減っていく人族。
長期戦になればなるほど、人族が不利になる。
なにより、蜂人族や蟻人族は、倒した相手――つまり、人族を食料として確保できる。
この点が一番大きい。
戦うことで戦力が拡大することが出来るかもしれない蜂人族と蟻人族。
特に、蜂人族は上空からの攻撃が可能なので、人族としては戦いづらい種族になる。
(……絶対にシーランディアから外に出してはいけない‼)
俺は危機感を感じながら、襲ってくる蜂人族と蟻人族を確実に倒していった――。