879話 精霊たちの対立!
その日、俺はシロたち三人と、火精霊のホオリンに会いに行こうとしていた。
だが、その前に水精霊のミズチに、風精霊のアリエル、そして地精霊のノッチたちにも事前に伝えようと、魅惑の森にいた。
「……本気なの?」
明らかに不機嫌な表情を浮かべるミズチ。
「まぁ、私たちは意見する立場ではないけどね」
アリエルは納得はしていないが、理解はしているようだ。
「まぁ、久しぶりに四人が顔を合わせるかもしれないんだな」
「「はぁーーー‼」」
ノッチの言葉にミズチとアリエルが声を揃えて、ノッチを睨みつけていた。
前にも同じような光景を目にしたことがある。
(同じ精霊いや、四大精霊と呼ばれる仲間なのに――)
「仲間じゃないわよ‼」
俺の思考を呼んだアリエルが、誰よりも先に文句を口にした。
「仲が悪いのは分かったが、なんで仲が悪いのかを、俺にも分かるように説明してくれ」
このままでは埒が明かない。
「ホオリンが、すぐに私を馬鹿にするからよ」
「そうそう、そのくせ私たちが文句を言うと、すぐに怒るのよね」
「俺からしたら、どっちもどっちだぞ」
ノッチの発言に、ミズチとアリエルはノッチを睨みつけていた。
客観的に見ているノッチのほうが、正しい評価なのだろう――。
そう思った瞬間に、ミズチとアリエルの視線が俺に向く。
「まぁ、貴方もホオリンに会えば分かるわ」
「そうそう、どっちが正しいかがね」
ミズチとアリエルは、さも自分たちが正しいと主張をしていた。
「まぁ、二人ともホオリンとは因縁があるだけだしな」
簡略的な説明をしなかったミズチとアリエルに対して、ノッチは丁寧に説明をしてくれた。
ミズチは自分の住まいにしていたお気に入りの湖があった。
遊びに来たホオリンだったが、ミズチが不在なことに腹を立てて、湖の水を沸騰させて湖の生物を茹で上げにしたうえ、さらに温度を上げて、湖を干からびさせたそうだ。
アリエルの場合は、力比べだと勝手に攻撃をしてきた。
遊びの延長とかでなく、全力での攻撃だった。
防御したアリエルだったが、風と炎が交わり、辺り一面が火の海と化したそうだ。
ホオリンは悪びれることなく、「う~ん。やっぱり、互角だな」とだけ言い残して、勝手に去っていたそうだ。
その後、アリエルは消火活動を必死で行なったが、三分の二以上の焼け野原が残ったという。
俺は話を聞いて、かなり我儘な精霊という印象を持つ。
「我儘ですむ問題じゃないわよ‼」
「本当です‼」
アリエルとミズチは、当時のことを思い出したのが、えらく憤慨していた。
たしかに、ミズチやアリエルの立場だったら、会うのも嫌だろうし、会ったら会ったで怒り狂うという表現も理解できる。
「まぁ、ユキノもホオリンが可哀そうだと言っていたし、俺としては会うという決断に変わりない‼」
「……ユキノは優しいからね」
「そうね。ホオリンをよく知らないから、仕方がないけど……」
ユキノの名前を出すと、ミズチとアリエルは、少しだけ口籠る。
「もし、ホオリンが無茶するようなら、私たちが相手になるから‼」
「そうそう!」
「あっ、その時は俺も入れてくれよ」
三人ともが、戦いにあれば参戦すると意思表示する。
まぁ、ホオリンの性格的に戦闘は避けられないかも知れないが……。
「ユキノは連れて行かないの?」
ミズチが不思議そうに質問をしてきた。
「どうしてだ?」
「どうしてって、あなたたち夫婦になったんでしょう?」
「あぁ、そうだが?」
「夫婦って、常に一緒にいるものじゃないの?」
「常にって訳じゃないぞ。現に今もユキノはいないだろう?」
「だって、すぐそこにいるじゃない」
ミズチはゴンドのほうを指差す。
精霊と人族では、距離感覚に違いがあるようだ。
「まぁ、危ないしな。ユキノは留守番して貰うつもりだ――」
「私たちが守るから、一緒に行きましょうよ」
「そうよ、そうよ‼」
ミズチとアリエルは、ユキノを今回の旅に参加させようとしている。
なにか、目的でもあるのか?
「ミズチとアリエルは、ユキノと話がしたいんだよな。まぁ、アリエルはユキノの恋愛話の続きを聞きたいんだろうけど――」
「ノッチ!」
アリエルは、恥ずかしそうにノッチに怒りをぶつけていた。
そういえば、アリエルは人族の恋愛話好きだったことを思い出す。
ユキノに意見を聞いてみても、一緒に行くという返事が分かっている。
ミズチやアリエルの提案を受け入れた時点で、ユキノの同行は決まったと考えていいだろう。
俺としても反対をするつもりはないし、護衛は精霊たちだけでなく、シロやクロにピンクーがいる。
危険な旅ではないだろう。
結婚して、初めての旅行っぽいことになるので、これが俺とユキノの新婚旅行にでもなるのだろうか――?




