874話 セイランとの約束ー1!
アスランとユキノを王都に送り届けると、俺は再びルグーレに戻ってきた。
コンテツとモエギにセイランの三人を、シキブの故郷に送り届けるためだ。
コンテツとモエギは、シキブの両親に手ぶらで会いに行くのも問題なのでと、手土産を用意していた。
ルグーレでは物資が不足しているので、たいした品ではないと言っていたが、状況が状況なので仕方がないだろう。
「私との約束を忘れないでよ」
「分かっている」
アスランとユキノの話を聞いて、「約束」という言葉の意味が俺の中で、一段と重く感じるようになった。
シロとクロ、ピンクーには引き続きルグーレや他の町などの調査と、町によって物資に余裕があれば物資の買い付けもを頼む。
今回は三人で街の様子を確認して貰う。
クロはマリーから連絡があり次第、マリーを迎えに行ってもらうので、その時だけ一旦別行動となる。
俺はコンテツたちに忘れ物がないかを確認してから、シキブの故郷近くに【転移】した。
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セイランがムラサキと【交信】をして、近くまで来ていることを伝える。
俺たちはシキブの故郷へと足を進める。
すぐに村らしきものが目に入る。
そして、遠目でもムラサキだと分かる男が村の入口に立っていた。
周囲に数人の鬼人族もいる。
鬼人の村の村長や、シキブの両親たちなのだろう。
ムラサキがコンテツやモエギに声をかける。
まずコンテツたち三人と俺を村の人たちに紹介する。
そして集まっていた人たちを俺たちに紹介してくれた。
やはり村長とシキブの両親たちだった。
シキブは実家で待っているそうだ。
お互いが緊張をしながら会話をしていた。
前世でも、こういった経験がないので、これが普通なのかさえも俺には分からない。
ただ、お互いを尊重していることは、見ていて分かった。
俺は部外者なので、ここで別れるつもりだが――。
「俺はここまでだな」
ムラサキたちに送迎役を終えたことを伝える。
「悪かったな」
ムラサキが俺に礼を言うと、コンテツがムラサキの頭を叩く。
「ムラサキ‼ お前のことだから、タクトに迷惑かけているんだろう。今回のことも、タクトの頼ったようだが、一人前の男なら人に頼らずに自分で動け‼」
コンテツはムラサキを叱る。
隣にいたモエギも同意見なのか、優しい言葉だったがムラサキを叱っていた。
俺の目には、嫁の両親がいる前で叱られるムラサキが、とても可哀そうに映った。
ムラサキも、コンテツとモエギに言われて自覚したのか、少し項垂れていた。
セイランは客観的な目で家族を見ながら、両親に注意をしていた。
シキブの両親も笑っていたので、鬼人族というにはこういう種族なのかも知れないと、俺は思うことにした。
一段落した段階ようなので、俺はセイランに向かって約束を果たすことを伝えることにした。
「セイラン。俺は帰るから約束の件、今からでもいいか?」
「もちろんよ‼」
セイランは嬉しそうに答える。
「それなら、俺も観戦する」
ムラサキが俺とセイランの戦いを観戦するというと、コンテツやモエギも興味があるのか、同じように観戦すると言い始めた。
当然、シキブの両親も観戦を希望して、家にいるシキブはもちろん、村の者たちにも声をかけるという大事に発展していた。
俺のことは既に村の人たちには知られていたようなので、どちらかといえば好戦的な種族である鬼人族の血が騒ぐのだろう。
セイランを見ると、騒ぎを気にすることなく戦いに備えて準備運動をしていた。
俺と目線があう。
「タクトは準備運動しなくていいの?」
「あぁ、戦いを想定すれば準備運動をすることはないからな」
「……たしかに、そうね」
俺の言葉に、セイランも準備運動を止める。
冒険するのであれば、いつ何時襲われるか分からない。
準備などできる筈がない――。
俺は、この世界で感じたことを口にしただけだが、セイランには考えを改めるほどに、衝撃的な言葉だったようだ。
セイランとの短い会話を終えると、村の前には大勢の鬼人族が集合していた。
シキブが最前列で座っていた。
村人たちへの影響も考えて、【念話】を使ってムラサキに侵入禁止の線を引いてもらう。
この線から入ったら、なにがあっても責任を負えないと伝えてもらった。
魔法は使わずに肉弾戦になると思うが、俺はその線に沿って【結界】を張る。
「じゃあ、始めるか⁈」
「最初から全力でいきますよ‼」
「あぁ、かかってこい!」
俺とセイランの手合わせが始まった‼