863話 ルグーレの現状―2!
数分歩いて、目的の場所に到着する。
魔物暴走によって倒壊した建物のあった場所だ。
「どうでしょうか?」
「そうですね――」
マリーは悩んでいた。
街の中央付近なので、場所的には問題無いと思う。
「この街で私たちが支援を行うことで、商売している人たちへの影響はどれくらいありますか?」
「全くないとは言えません。しかし、多くの人を救うためであれば、私が必ず説得します」
たしかに、ここまで歩いて来る途中で、数店を見たが商品は少ないが値段はありえないくらい高かった。
需要と供給のバランスが崩れてしまっているのだろう。
「分かりました。この街の商会への説得は御願い致します。今から準備にかかっても宜しいでしょうか?」
「はい、それは構いませんが?」
マリーが俺を見る。
「シロたちを呼べばいいのか?」
「お願いできるかしら」
俺はシロたちを呼ぶ。
目立たないようにルグーレに移動して、マリーと合流するように伝える。
「整地もしておいたほうがいいか?」
「そうね」
「俺は途中で抜けるかもしれないが、四人で大人数を相手にできるか?」
「やってみないと分からないけど、これが最大人数でしょう?」
たしかにフランたちは、本来の仕事がある。
他に呼べそうな者もいるが、俺たちの勝手な行いに付き合わせるわけにもいかない。
「その……領主のハーベルト様にご相談されてはいかがでしょうか?」
領主への打診は俺も考えていた。
当然、マリーの考えていただろうが、その考えを排除したのにも理由がある。
「領主であるハーベルト様が今迄、領民のために食料を出さなかったということで暴動などは起きないのでしょうか?」
「それはないと思います。何度も、領主様は蓄えておいた食料などを、街の人々に配ていましたから――」
「そうですか……その配給が最後に行われたのは、いつですか?」
「確か――五日ほど前だったと思います」
救援物資が届かない状況だから、それが貯蓄していた最後の食糧だったのだろう。
マリーは俺の顔を見るので、軽く頷いた。
「分かりました。ハーベルト様に面会の許可を取ってみます」
「そうですか。私のほうから、話をしましょうか?」
「いいや、大丈夫だ」
護衛の俺が話に入ったことに、ドギーは驚く。
「お気持ちだけ受け取っておきます。なにかあれば、協力頂けますか?」
「はい。その時は、なんでも言って下さい」
「ありがとうございます」
マリーが礼を言う。
ドギーには、もう少しだけ町を見て回ると話して、ここで別れる。
「なにか、考えがあるのよね?」
「あぁ、アスランとユキノが来るから、簡単に領主とは会えるだろう」
「……そんなことだと思ったわ」
マリーは少し呆れるように話す。
「しかし、思ったよりも深刻ね」
「あぁ、この先にあったトゥラァジャ村も全滅だった。聞いていた情報と、かなり違っていたな」
「そう……」
言葉少なく返事をするマリーは悲しそうな表情で、町の風景を見ていた。
「とりあえず、アスラン様とユキノ様を迎えに行かないとね」
「そうだな。シロたちも呼ばないといけないしな。それで、マリーはどうする?」
「そうね……一人で残っても、これといって何かできるわけじゃないので、一緒に行こうかしら」
マリーは王族への免疫ができているので、躊躇することがなかった。
何度もルーカスやイースが、遊びに来ていれば、公式の場でなければ問題無いと考えているのだろう。
俺はマリーを連れて、アスランとユキノを迎えに行く。
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「御待ちしておりました」
ユキノが嬉しそうな表情で、軽く頭を下げる。
「マリーさんも御一緒だったのですね」
「はい、ユキノ様。四葉商会として、出来るだけのことはしたいと思っております」
「ありがとうございます」
ユキノとマリーが会話をしている横で、俺とアスランも話を始めた。
「無理を言ってすまない」
「いや、無理を言ったのは俺のほうだから、気にしなくていいぞ」
「では、行きましょうか?」
「どこに移動をする? 俺はルグーレの領主の館には入れないぞ?」
「そうですね……リリアン殿か、パトリック殿に連絡をしてみる」
リリアンとパトリックというのは、領主ハルバートの子供たちだろう。
それよりも――。
「第一王子と第一王女が揃ってくると知れれば、大騒ぎになるだろう」
「……そうですか?」
「あぁ、間違いない。今は極秘で行った方がいいだろうな。例えば、領主の館に入れるように合言葉などを決めておくとか最悪、俺が領主の館に忍び込んで、そこに【転移】させることもできるが、あまりお勧めはしない」
一応、王族と親しい関係の領主の館に、勝手に忍び込むのに気が引ける。
「分かりました」
アスランは、リリアンかパトリックに連絡をする。
その間に俺は、シロたちを呼び戻す。
シロにクロ、ピンクーは人型で俺の目の前に姿を現す。
それぞれから報告を受けるが、それなりに救援物資は集められたようだ。
ピンクーは、いかに自分が頑張ったかを俺に話すので、褒めてやる。
「門番の衛兵を交代させてくれるそうです。その衛兵は王都にいたこともあるので、私やユキノの顔も知っていますが、衛兵には王都から極秘の使者が来ると、そしてリリアン殿の名を出せば話が通じるようにしてくれているそうです」
「分かった。ところで、荷物は――」
俺は周囲を見渡す。
もしかしたら、救援物資が別の部屋にあるかもしれないと
思ったからだ。
「タクト様。ここにありますわ!」
ユキノは手で持っていた巾着を俺に見せる。
その巾着は俺が【アイテムボックス】を【魔法付与】して、ユキノに贈ったものだった。
「全部入っているのか?」
「はい!」
満面の笑みで答えるユキノ。
「用意は終わっているということだな」
「はい」
アスランが頷くと同時に、ユキノが返事をした。