860話 お手伝い―3!
撤去作業の際に、俺が避けておいた遺品のようなものを、何人かが手に取り持っていく。
余ったものは瓦礫を集積していた場所に置く。
「じゃあ、始めてくれ」
「あぁ……」
俺は【火球】で遺体を焼く。
そして、集積していた瓦礫たちも同じように【火球】で焼いた。
だれも集積した瓦礫のほうを見ていない。
遺体が焼かれる様子を黙って見ていた――。
この送り火が、天まで届く……いや、冥界で新しい魂として生まれ変われるようにと、祈りながら俺も見ていた。
燃え尽きて灰になった部分は、風に吹かれて飛んでいく。
残った骨等は触れれば粉々になり、灰と同じように風に流される。
悲しむ者たちも、それを分かっているので、最後の別れを惜しむように骨に触れていた。
瓦礫の火が鎮火するまでに、まだ時間がある。
「俺が見ているから、休憩所で休んでいていいぞ」
「いや、それなら俺も残ろう」
俺はコンテツと一緒に残ることにした。
残りは、モエギと一緒に休憩所へと移動する。
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コンテツと二人で、瓦礫の火を黙って眺めていた。
「ありがとうな」
「なにがだ?」
「手伝ってもらったうえに、いろいろと気を使ってくれただろう」
「そんなに気にすることでもないから、忘れてくれ」
コンテツは頷く。
「ムラサキは元気で、やっているのか?」
「まぁ、元気と言えば元気だな」
「そうか。しかし、子供だと思っていたあいつが、父親になるとはな……」
「コンテツだって、爺ちゃんになるんだろう」
「たしかにそうだな」
コンテツは笑っていた。
「実感がないな。それに、あのやんちゃなシキブが母親だし、親としては少し心配だな」
「シキブを知っているのか?」
「あぁ、随分と昔だが何度か会ったことがある。無鉄砲と言うか、自分の力を過信して突進していくイメージしかないな」
「そうなのか。まぁ、俺は昔のシキブを知らないが、少し前まではギルマスもしていたし、昔とは随分と変わったと思うけどな」
「そうだろうな。それより、ムラサキに迷惑を掛けられていないか?」
「迷惑ね……悪気がなく、思ったことを言うことというか、口が軽いくらいだな」
「それは悪かったな。親として謝ろう」
「いやいや、そこまでのことじゃないから」
謝罪しようとするコンテツを、俺は慌てて止める。
「あいつは昔から、心を許した奴には甘える傾向があったからな」
「俺はムラサキに、それだけ信頼されているってことか?」
「多分、そうだろう。タクトとは会って間もないが、あいつが信頼をするのも分かる気がする」
「親子だからか?」
「親子というよりは、冒険者……いや、人族としてのほうが正しい表現になるな」
「それは過大評価だろう」
「いいや、タクトが自分のことを過小評価しているだけだと、俺は思うがな」
ムラサキの話をするコンテツは、優しい表情をしていた。
離れているとはいえ、子供であるムラサキのことを心配していたのだろう。
「まぁ、俺からもムラサキには注意しておく」
「有り難いが、ほどほどに頼む……」
俺は苦笑いをする。
悪気がないムラサキは、コンテツに叱られる意味が分からないかも知れない。
良くも悪くもムラサキは純粋だと、俺は思っている。
俺を利用しようとしているのでなく、頼ってくれている気がしているので、俺としても、そこまでの不満を感じていない。
シキブは分からないが――。
やがて、火が小さくなっていき、炭だけが残る。
「水をかけておいた方がいいのか?」
「そうだな。本当であれば埋めておきたいんだがな……」
「埋めることもできるぞ」
俺には【掘削】のスキルがある。
穴掘りくらいは簡単な作業だ。
「ランクSSSの冒険者というのは、本当に何でもできるんだな……」
「そうかもしれないな」
否定するのも面倒だったので、適当に返事をする。
「穴を掘って、これを入れればいいんだな?」
「頼めるか?」
「あぁ、任せてくれ」
俺は【掘削】で地面に穴を掘る。
しかもかなり深く掘ることにした。
そして、集積場の地面下に横穴を掘り、簡易的な地滑りを起こした。
穴へと崩れ落ちる炭などの燃えカス。
あまりの大きな音に休憩上にいた者たちが戻ってきた。
なにか起きたと思って来てくれたのだろう。
俺は何事もなかったかのように作業を続ける。
水をかけてから、穴を塞ぐように土を被せた。
「こんな感じでいいのか?」
「あぁ、十分すぎる」
本当であれば、整地までしたいと思ったが、俺のスキルのなかに、そのようなスキルはない。
もしかしたら、土魔法を使っていたシロなら何か方法があるのでは……。
「あっ!」
俺は思わず叫ぶ。
「どうした‼」
コンテツが、突然叫んだ俺に驚く。
「いや、何でもない。それよりも、この辺りを整地しても問題ないか?」
「それは出来るなら頼みたいが……できるのか?」
「あぁ」
俺のスキルでは無理だが、地精霊のノッチであれば簡単なことだろう。
俺は地精霊のノッチを呼ぶと、地面から飛び出すように現れた。
「どうした?」
「突然で悪いが、この辺りを整地してくれるか?」
「あぁ、それくらいなら造作もないが……この辺りって、どれくらいのことを言っている?」
「そうだな……次の街や村がある辺りまで頼めるか?」
「誰にものを言っている。俺は地精霊だぞ‼」
ノッチは 右手をかざして一回転する。
すると、地面の凹凸が無くなり、綺麗な地面へと変化した。
「さすがだな」
「当り前だ!」
地精霊の力を侮っていると感じたのか、ノッチは少し不機嫌だった。
「他に用事はあるのか?」
「今のところはないが、別の場所でも同じように整地するのに協力して欲しい」
「……タクトの頼みなら断れないが、俺にもできる範囲があるから、タクトには何度か移動をしてもらう必要があるぞ」
「それくらいなら、お安い御用だ」
「分かった。その時は又、呼んでくれ」
「ありがとうな、ノッチ!」
笑顔のノッチは、地面に潜るように消えていった。