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860話 お手伝い―3!

 撤去作業の際に、俺が避けておいた遺品のようなものを、何人かが手に取り持っていく。

 余ったものは瓦礫を集積していた場所に置く。


「じゃあ、始めてくれ」

「あぁ……」


 俺は【火球】で遺体を焼く。

 そして、集積していた瓦礫たちも同じように【火球】で焼いた。


 だれも集積した瓦礫のほうを見ていない。

 遺体が焼かれる様子を黙って見ていた――。

 この送り火が、天まで届く……いや、冥界で新しい魂として生まれ変われるようにと、祈りながら俺も見ていた。


 燃え尽きて灰になった部分は、風に吹かれて飛んでいく。

 残った骨等は触れれば粉々になり、灰と同じように風に流される。

 悲しむ者たちも、それを分かっているので、最後の別れを惜しむように骨に触れていた。


 瓦礫の火が鎮火するまでに、まだ時間がある。


「俺が見ているから、休憩所で休んでいていいぞ」

「いや、それなら俺も残ろう」


 俺はコンテツと一緒に残ることにした。

 残りは、モエギと一緒に休憩所へと移動する。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 コンテツと二人で、瓦礫の火を黙って眺めていた。


「ありがとうな」

「なにがだ?」

「手伝ってもらったうえに、いろいろと気を使ってくれただろう」

「そんなに気にすることでもないから、忘れてくれ」


 コンテツは頷く。


「ムラサキは元気で、やっているのか?」

「まぁ、元気と言えば元気だな」

「そうか。しかし、子供だと思っていたあいつが、父親になるとはな……」

「コンテツだって、爺ちゃんになるんだろう」

「たしかにそうだな」


 コンテツは笑っていた。


「実感がないな。それに、あのやんちゃなシキブが母親だし、親としては少し心配だな」

「シキブを知っているのか?」

「あぁ、随分と昔だが何度か会ったことがある。無鉄砲と言うか、自分の力を過信して突進していくイメージしかないな」

「そうなのか。まぁ、俺は昔のシキブを知らないが、少し前まではギルマスもしていたし、昔とは随分と変わったと思うけどな」

「そうだろうな。それより、ムラサキに迷惑を掛けられていないか?」

「迷惑ね……悪気がなく、思ったことを言うことというか、口が軽いくらいだな」

「それは悪かったな。親として謝ろう」

「いやいや、そこまでのことじゃないから」


 謝罪しようとするコンテツを、俺は慌てて止める。


「あいつは昔から、心を許した奴には甘える傾向があったからな」

「俺はムラサキに、それだけ信頼されているってことか?」

「多分、そうだろう。タクトとは会って間もないが、あいつが信頼をするのも分かる気がする」

「親子だからか?」

「親子というよりは、冒険者……いや、人族としてのほうが正しい表現になるな」

「それは過大評価だろう」

「いいや、タクトが自分のことを過小評価しているだけだと、俺は思うがな」


 ムラサキの話をするコンテツは、優しい表情をしていた。

 離れているとはいえ、子供であるムラサキのことを心配していたのだろう。


「まぁ、俺からもムラサキには注意しておく」

「有り難いが、ほどほどに頼む……」


 俺は苦笑いをする。

 悪気がないムラサキは、コンテツに叱られる意味が分からないかも知れない。

 良くも悪くもムラサキは純粋だと、俺は思っている。

 俺を利用しようとしているのでなく、頼ってくれている気がしているので、俺としても、そこまでの不満を感じていない。

 シキブは分からないが――。



 やがて、火が小さくなっていき、炭だけが残る。


「水をかけておいた方がいいのか?」

「そうだな。本当であれば埋めておきたいんだがな……」

「埋めることもできるぞ」


 俺には【掘削】のスキルがある。

 穴掘りくらいは簡単な作業だ。


「ランクSSSの冒険者というのは、本当に何でもできるんだな……」

「そうかもしれないな」


 否定するのも面倒だったので、適当に返事をする。


「穴を掘って、これを入れればいいんだな?」

「頼めるか?」

「あぁ、任せてくれ」


 俺は【掘削】で地面に穴を掘る。

 しかもかなり深く掘ることにした。

 そして、集積場の地面下に横穴を掘り、簡易的な地滑りを起こした。

 穴へと崩れ落ちる炭などの燃えカス。


 あまりの大きな音に休憩上にいた者たちが戻ってきた。

 なにか起きたと思って来てくれたのだろう。

 俺は何事もなかったかのように作業を続ける。

 水をかけてから、穴を塞ぐように土を被せた。


「こんな感じでいいのか?」

「あぁ、十分すぎる」


 本当であれば、整地までしたいと思ったが、俺のスキルのなかに、そのようなスキルはない。

 もしかしたら、土魔法を使っていたシロなら何か方法があるのでは……。


「あっ!」


 俺は思わず叫ぶ。


「どうした‼」


 コンテツが、突然叫んだ俺に驚く。


「いや、何でもない。それよりも、この辺りを整地しても問題ないか?」

「それは出来るなら頼みたいが……できるのか?」

「あぁ」


 俺のスキルでは無理だが、地精霊(ノーム)のノッチであれば簡単なことだろう。

 俺は地精霊(ノーム)のノッチを呼ぶと、地面から飛び出すように現れた。


「どうした?」

「突然で悪いが、この辺りを整地してくれるか?」

「あぁ、それくらいなら造作もないが……この辺りって、どれくらいのことを言っている?」

「そうだな……次の街や村がある辺りまで頼めるか?」

「誰にものを言っている。俺は地精霊(ノーム)だぞ‼」


 ノッチは 右手をかざして一回転する。

 すると、地面の凹凸が無くなり、綺麗な地面へと変化した。


「さすがだな」

「当り前だ!」


 地精霊(ノーム)の力を侮っていると感じたのか、ノッチは少し不機嫌だった。


「他に用事はあるのか?」

「今のところはないが、別の場所でも同じように整地するのに協力して欲しい」

「……タクトの頼みなら断れないが、俺にもできる範囲があるから、タクトには何度か移動をしてもらう必要があるぞ」

「それくらいなら、お安い御用だ」

「分かった。その時は又、呼んでくれ」

「ありがとうな、ノッチ!」


 笑顔のノッチは、地面に潜るように消えていった。

 

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