85話 語られない歴史!
座って菓子を食べているアルとネロに質問する。
「ふたり共、人族と争ったことはあるか?」
「おぉ、あるぞ!」
「あるよ~!」
まぁ、そうだろうな。
「詳しく教えてくれないか」
アルは、一〇〇〇年程前に人族がドラゴンの住処を襲って来た。
ドラゴンを皆殺しにしようとした際に、龍人族としてドラゴン側につき人族と争ったそうだ。
この争いがきっかけで、龍人は人族でなく魔族扱いを受ける事になったそうだ。
八〇〇年程前も同様に、ドラゴンの髭や鱗が金になる為、大規模な撲滅作戦があったので反撃した。
その他にも小さな小競り合いはあるが、アルが手を下した大きな事はこの二件のみだそうだ。
ネロは、八〇〇年程前に王都で『死の病』が流行した際に吸血鬼のせいと噂になり、吸血鬼や関係のない人族まで処刑された。
特に力の弱い農民等が犠牲になっていたそうだ。
一族と共に、国王や貴族等の関係者を殺害した。
六〇〇年程前も同様で、『死の病』が流行ると又、吸血鬼が原因だと噂され、吸血鬼や鬼人などが多く処刑された。
ネロが住処にしていた場所や鬼人の集落も王国騎士団によって焼かれた為、王国関係者を殺害したそうだ。
四〇〇年程前は、知り合いだったサキュバスの集落を、王族関係者の嫉妬により襲撃された為、力を貸して襲ってきた集団を皆殺しにした。
三〇〇年程前は、貴族が不老不死を狙い吸血鬼を大量にさらっては、人体実験を繰り返し行っていた為、報復行為でその研究施設ごと破壊した。
ネロが手を下したのは、この四件のみだ。
王国関係者や襲ってきた者のみを殺害した為、一般人の殺害はしていないと言っている。
「ほほ~! 生き証人から空白の歴史を聞けるとは興味深いな! 破壊したのは北の都にある研究所かな?」
「そうなの~! 良く知ってるの~!」
ローラは、面白そうだ。
王国では、研究中の大爆発で施設が崩壊したことになっており、研究していた内容についても未発表の為、いまでも原因不明なままだそうだ。
「だから、王国は吸血鬼を嫌っているのか! なるほどの~!」
ローラが言うには、王国は魔族の中でも特に吸血鬼を目の敵にしているそうだ、
ネロが原因だろうが、完全に逆恨みだな。
「それでは、そちらから手を出したことは無いのですか?」
シキブが質問をする。
「おぉ、無いぞ! 人族は、すぐに都合の良い様に歴史を変えるからな!」
「そうだ、そうだ~!」
たしかに、話を聞く限りだと悪いのは人族になる。
「六〇〇年前の話は、一族の話と一致するな!」
「そうね。 鬼人族以外は知らない筈だし……」
鬼人族の中では、歴史について語り継いでいるのか?
「アルシオーネ様は、あと一件御座います」
クロが口を挟む。
「一〇〇年程前に第五柱魔王と第六柱魔王を倒す際に、この世界の四分の一を滅ぼしています」
「あぁ、あれは事故じゃ! あいつらがふたり掛かりで攻撃してきたから、反撃したらそうなった!」
「あれは、あのふたりが悪いの~! アルを魔法攻撃したのに、跳ね返った攻撃を避けたの~!」
なるほど、魔王の全力魔法攻撃でアルを攻撃したから【魔法反射(二倍)】で跳ね返ったという事か!
そりゃ、この世界が崩壊するのも分かる。
驚いたカンナが、
「魔王を魔王が倒したのですか!」
「おぉ、倒したぞ! 妾とネロにかかれば、あ奴ら等なんて敵ではないわ!」
「楽勝なの~!」
カンナは信じられない様子だ。
「人族では、どのように伝わっているんだ?」
カンナに尋ねる。
「はい、勇者一行がその命と引き換えに、倒したことになっております」
「勇者一行?」
「はい、勇者一行の戦いは今も語り継がれております」
「……勇者一行ね!」
神では無く勇者の功績となっている所は、信仰の事と関係があるのか?
しかし、魔王を神が裁いた方が信仰心が高くなると思うが……
そもそも、勇者一行が全滅したのになんで倒した事が分かるんだ?
「勇者一行の子孫は、いまも健在なのか?」
「はい、王都で上級貴族として暮らされております」
そいつらの先祖が一番怪しいな!
話を戻すか。
「要するにお前らは、攻撃されたから仕返しをしただけって事か!」
「当たり前じゃ!」
「そうなの~!」
これで、アルとネロの疑いが晴れた。
反対に俺の印象は、悪くなった気がするが……