854話 新商品!
トグルとリベラは、めでたく婚約? いや、結婚することになった。
詳しく聞くのも野暮なので、流れに身を任せることにした。
仲間であるリベラが幸せになることが、自分のことのように嬉しいフランは、そのままトグルとリベラの写真を撮ると勝手に決めていた。
フランの熱意に断ることができないトグルとリベラだった――。
衣装に着替えて、撮影が始まる。
関節や筋肉が固まってしまったのか、トグルの動きは終始変だった。
俺とセイランは笑う。
いつもなら、言い返してくるトグルだったが、その感情はなくフランの指示通りに動いていた。
一方のリベラは幸せそうな表情をしていた。
目線を隣にいたセイランに向けると、羨ましそうにリベラを見ている。
リベラの姿を自分に重ね合わせているのかも知れない。
口では、ああ言っても結婚願望が強いのかもしれないと俺は思う。
セイランにもいつか、このウエディングドレスを着る日が来るのだろうが――。
「セイランも着てみたいか?」
「私! そりゃ、着たいけど……」
「撮影した写真を使わせてくれるなら、好きなだけ着てもいいぞ」
「本当‼」
いつもよりも高い声で、セイランは返事をした。
俺はマリーの方を見ると頷いて、歩いて行った。
「幾つか種類があるので、見に行くか?」
「もちろんよ!」
嬉しそうな表情を見せるセイラン。
試着室に行くと、俺の知らない衣装も幾つかあった。
マリーを中心に自分たちでコンセプトなどを決めて、ユイがデザインをしたのだろう。
幾つものドレスを目にしたセイランは、とても嬉しそうだ。
「どれを着てもいいのよね?」
「もちろんですよ」
後ろから来たユイが答える。
手には新しい衣装を持っていた。
「初めまして、私はデザイナーのユイと申します」
ユイがセイランに自己紹介をする。
「これが新作です。セイランさんに似合うかと思いますよ」
ユイは持って来た衣装を広げて見せる。
ウエディングドレスというよりは、礼服に近い。
なぜなら、ドレスの色が黒だからだ。
確かに、俺がいた頃は白色を基調色としていた。
それは俺の固定概念からくるものだからだ。
この世界には、俺のような固定概念はない。
前世でも衣装直しの際に、ピンクなどのドレスを着ることは珍しくない。
この世界ならではの文化があってもいいだろうと、俺は思いながら嬉しい気持ちになる。
「その……全部着たいって言ったら、怒られるかな?」
「写真を店に飾ったり、宣伝用に使っていいなら、どれだけ着てもいいと思うが、どうだユイ?」
「はい、大丈夫です。冒険者として有名なセイランさんに来て頂ければ、こちらとしても問題ありません」
「だとよ!」
セイランは目を輝かせる。
ここはユイに任せて、俺は二階で休憩することにした。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
くつろぎながら、俺はブライダル・リーフのことを考えていた。
結婚式ブームも一段落して、すこし落ち着いている。
フランもグランド通信社の仕事を多くするようになったと、マリーやフランから聞いている。
なんだかんだと、写真の需要は高くなってきているのだ。
安易につけたブライダル・リーフという屋号だが、意味は俺しか知らないので、結婚式以外のことをしても、違和感があるのは俺だけだろう。
普通に写真館の仕事になっているので、今後は家族写真や、赤ん坊が生まれた時の記念写真などがメインになっていくだろう――。
……そういえば‼
俺は、思い出した。
以前から指輪以外の商品も考えていた。
前世で、先輩に子供が生まれた時、誰かがお祝いで赤ん坊の手形や、足形を粘土のようなもので型取りをして写真と並べている、お祝いグッズを見た覚えがある。
出産予定の夫婦に、写真撮影と同時に行えば……。
俺はイメージを紙に書く。
そして、その紙を持ってマリーの所へと足早に向かった。
凄い勢いで駆け付けた俺に、マリーは「何事か⁈」と驚いていた。
一応、お客がいないのを確認したので、営業妨害はしていないつもりだ。
俺はマリーに、子供が生まれた時の記念品について説明をする。
マリーは真剣に話を聞きながら頷く。
「子供の名前も入れた方がいいわよね?」
「確かにそうだな……名前は、両親に書いてもらうのはどうだ?」
「そうね。その方が、より一層思い出の品になるわね。それと、写真は子供一人のと、家族写真の二枚の方がいいのかしらね?」
「うーん、どうだろうな。そこら辺は、お客に選択させてもいいかもな」
「了解。皆と、もう少し話し合って具体的に進めてみるわ。型取り用の粘土は、ドワーフ族に頼めばいいし――」
マリーは真剣な表情で、俺が書いた紙に色々と書き込んでいく。
「その……私から、こんなことを言うのは失礼かもしれないけど、ムラサキさんと、シキブさんのお子さんを最初のお客様にするつもりなのよね?」
「もちろん、そのつもりだ!」
あの口の軽い夫婦には、少しくらい協力をして貰っても罰は当たらないだろう。
なにより、本人たちも嬉しいに違いない。