852話 不器用な男の扱い!
俺は、走り去るトグルを見ていた。
「うまくいくかしらね?」
セイランが、気まずそうに話し掛けてきた。
「こうなることを予想していたのか?」
「まぁね。あのタイプは兄貴と一緒で、なにかきっかけがないと、動かないからね」
「ムラサキと一緒ね……」
「兄貴もシキブさんが、パーティーが組めずに悲しそうな顔をしていた時、かなり悩んでいたからね」
「……その時も、セイランがなにかしたのか?」
「う~ん……なにかしたっていうか――兄貴に、このままだとシキブさんが冒険者を止めてしまうかもね! って言ったわ」
「セイランは、その時からムラサキがシキブのことを好きって分かっていたのか?」
「もちろんよ。だって兄妹だからね。問題があるとはいえ、兄貴はシキブさんのことを認めていたしね。異性ということより、冒険者としての才能があるのに、このまま終わらせることが悔しかったんでしょうね」
「なるほどね……」
身近に似たような男性がいるからこそ、不器用な男性の扱いには慣れているのだろう。
「それじゃあ、私たちも行きましょうか?」
「行くって、どこにだ?」
「あの二人がどうなったかに決まっているでしょう?」
セイランは俺の背中を叩くと、歩き始めた。
トグルと一緒にいたから、リベラの誤解を解くためなのか、それとも煮え切らない二人を叩きつけるつもりなのかは、今の俺には分からなかった――。
トグルたちの後を追った俺とセイランだったが結局、四葉商会まで来てしまった。
リベラは脇目も振らずに、ここまで走ってきたのだろう。
受付にいたユイに声を掛ける。
「あっ、タクトさん!」
ユイは俺を見ると、すぐに横にいたセイランに目を移す。
「その、リベラとフランは戻ってきているか?」
「はい。ですが……」
「トグルもいるのか?」
「……はい」
「二階にいるのか?」
「いえ、三階です」
「分かった」
ユイが、なにか言いたそうだったが、 俺はセイランと三階に向かった。
三階に上がる階段の途中にマリーとフランがいた。
俺たちの存在に気付くと、フランは怒りの表情に変わる。
「どうなっている?」
「どうなっているって――」
マリーが簡単に説明をしてくれた。
戻ってきたリベラは、三階の物置に使用している部屋に立て籠もってしまった。
すぐにトグルも来たのだが、部屋の前で立っているだけだった。
フランはマリーに、事情を説明していた最中だったそうだ。
「全ては、その人のせいですよ」
フランの怒りの矛先は、完全にセイランだった。
しかし、セイランが動じることはなかった。
「私からすれば、どっちもどっちだと思うわよ」
マリーは呆れたように、フランの言葉に反応をした。
「リベラもトグルさんも、お互いに自分の気持ちを伝えないままだったから、この状況になったんでしょう?」
「それは、そうだけど……」
「まぁ、二人の気持ちをはっきりさせるには、いい機会なんじゃない」
「でも……」
「それで、その隣の女性がフランの話の人なのよね?」
「はい。セイランと言います」
マリーの問いに笑顔で答えるセイランだった。
「セイランはムラサキの妹で、シキブの様子を見るために、ジークに来ている」
「もう、帰りますけどね」
「でも、トグルさんにプロポーズをしたんでしょう? 街でも噂になっていたわよ」
「あぁ、でも意中の女性がいることを知ったので諦めます」
セイランは、少し恥ずかしそうに答えた。
「セイランさん、もしかして――」
「さぁ、どうですかね?」
マリーの言葉をはぐらかすセイラン。
「まぁ、いいでしょう」
マリーは小さくため息をつくと、少し階段を上がりトグルの様子を確認する。
あいかわらず扉の前でウロウロと歩いているだけのトグル……。
フランもマリーの後ろから覗くが、どうしていいのか分からない様子だ。
仕方がないので、俺とセイランも、トグルの様子が見える位置に移動した。
「中の人は、リベラさんでしたよね?」
「あぁ、そうだが?」
セイランは、リベラの名を確認するとジャンプをして、俺たちの頭上を飛び越した。
「ちょっと、行ってきますね」
セイランは手を振りながら、トグルに向かって歩いていく。
「ちょっ――」
セイランを止めようとするフランを、マリーが抑止する。
「マリー、なんで止めるのよ」
「ここは、セイランさんに任せましょう」
「でも、あの人のせいでリベラとトグルさんが――」
「フラン、それは違うわ。多分、セイランさんは、あなたの思っているような人じゃないわ」
「マリーは、あの場所にいなかったから、そんなことが言えるのよ!」
フランは興奮していた。
それもリベラのことを思ってだということを、俺もマリーは分かっていた。
「俺もマリーと同じ意見だ。暫く様子をみてから判断してもいいだろう?」
「タクトまで‼」
俺とマリーが、セイランの肩を持つのが不満な様子だった。