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848話 恍惚とした表情!

「そう、セイランがね……」


 シキブは苦笑いしていた。


「セイランは、シキブに憧れているんだろう?」

「ん~、どうなのかな?」

「いやいや、風貌は完全にシキブを意識しているって!」

「……そう?」


 シキブは気付いていないようだ。

 しかし、格闘家という職業もシキブの影響なのかと疑っている俺と、シキブの温度差があることに驚く。


「なにか思い当たることはないのか?」


 暫く考えるシキブ。


「……ゴメン、全く思い出せないわ」


 本当に思い出せないようで、申し訳なさそうに笑いながら答えた。


「まぁ、そのことは置いて、セイランに会うことは可能か?」

「えぇ、大丈夫よ。義理の妹に会う訳だから、断る理由はないわよ」


 シキブは立ち上がるので、俺はシキブの方へと近寄る。


「そういうさりげない優しさが、タクトにはあるのよね」

「俺は、いつ誰が相手でも優しいつもりだけどな?」

「はいはい。セイランが待っているんでしょう。早く行きましょう」


 俺は【転移】でジークの四葉商会へと移動した。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「悪かったな、マリー」

「別にいいわよ」

「じゃぁ」

「えぇ、また後で!」


 マリーに礼を言って、シキブとギルド会館へ向かう。

 リベラとも挨拶を交わしたが、マリーの言う通り元気がなかった。


 シキブの姿を発見した冒険者たちが集まってくる。

 ギルド会館へと歩きながら、冒険者と話をする。

 久しぶりにあった妊婦姿のシキブに、どう接していいのか分からない冒険者もいたくらいだ。

 いつも通り、笑いながら冒険者たちと話をするシキブ。

 自然と周りが笑顔になるのは、天性のものなのだろう――。


「また後でね!」


 シキブは用事があると、冒険者たちに笑顔で手を振りながら、俺とともに二階で待つ、ムラサキとセイランの所へと階段を上った。


「なんで、私が先に歩いているの?」

「もし、シキブが足を踏み外した時に俺が下にいれば、受け止めることができるだろう?」

「……確かにそうね。考えた事もなかったわ。ありがとうね」


 妊婦でなくても、出来るだけ俺は下るの時は先に、上る時は後ろにいるようにしていた。

 まだ前世で俺が若くバイトに明け暮れていた時、バイト先の女性の先輩から、女性にモテる話を聞いた。

 それとき、確かにそういう危険がある! と気付かされた。

 それ以降、誰かと出かける時、意識するようになっていた。

 今では、普通の所作だ。

 勿論、礼を言われるためにしている訳では無い。



 階段を上がり、シキブを追い越す。

 そして、ムラサキとセイランの待っている部屋の扉を叩く。

 中からムラサキの声に、俺は自分の名を告げてから部屋へと入る。


 シキブの姿を見つけると、セイランは笑顔でシキブに駆け寄る。


「シキブさん‼ 体調は、どうですか?」

「ありがとう、セイラン。順調よ」

「本当ですか! 兄貴が迷惑かけてませんか?」

「だ、大丈夫よ」


 セイランはシキブのことを、本気で心配しているのだと感じた。

 それに立場的に、ムラサキとシキブであれば、間違いなくシキブの方が上なので、ムラサキはシキブの言われたことに逆らうことはないだろう。

 どうやら、セイランは兄であるムラサキより、シキブの味方なのだろう。


「再会の喜びはいいが、シキブを先に座らせたほうがいいだろう」


 俺の言葉で、シキブのことを気にしていない自分に気付いたセイラン。

 すぐに、シキブを案内して座らせた。


 シキブとの話すセイランは、本当に嬉しそうだった。

 もし、ムラサキの妹でなく、シキブの妹だと紹介されたとしても疑わなかったかもしれない。

 そして、話題が徐々に俺の話になっていく――。


 俺と初めて会った時のことを、昨日のことのように話すシキブとムラサキ。

 その後、俺にどれだけ迷惑をかけられたかを、私情を含めて話していた。

 俺が反論しようとしたが、シキブとムラサキの表情を見ると、話しの流れを止める気にはならなかったので、様子を見ることにした。


 ――しかし俺は、この判断を後悔することとなる。

 今迄の、俺への不満なのか分からないが、俺の常識が無いことや、規格外のことについて、セイランに同意を求めるように話す。

 完全に俺は、常識がない人間族! とセイランの記憶されただろう……。

 ――と、思ったのだが、魔物との戦いを聞くセイランは興奮して、質問などもしていた。

 一見、同じように見える三人。

 しかし、笑顔のシキブとムラサキに対して、恍惚とした表情を浮かべるセイラン。

 俺は、このあとにセイランと手合わせをすることが、少し億劫になった――。

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