表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

843/942

842話 アルとグラちゃん……!

「遅くなって、悪かったの……」


 妾は 先代グランニール……グラちゃんが長らくいた場所にいた。

 長い間、ドラゴンロードの呪縛に苦しみ戦っていた。


 グラちゃんを拘束していた鎖。

 我が友で第三柱魔王であったロッソが作ったものだ。

 鎖の近くに幾つもの骨が転がっていた。

 ロッソの鎖の効果が消えていないようだ。

 既に破壊されているため、拘束することはできないが、魔力を奪うことはできるようで、弱い魔物は命を落としたのじゃろう。

 その弱い魔物が、他の魔物を呼び寄せているようだ。

 妾も近付けば、魔力を吸われる――妾では、あの鎖を破壊することができぬじゃろう。

 破壊できるとすれば、魔法を使えるタクトくらいじゃろう。

 タクトに鎖の破壊を頼むことも考えたが、グラちゃんの一部だと思うと躊躇ってしまう。


「これは妾からじゃ」

 

 鎖の届かない場所に、持って来た花を置く。

 いるはずのないグラちゃんに向かい、一人で話し掛ける。


「グラちゃんに初めて会った時は、礼儀知らずだと叱られたの……魔王じゃった妾相手に文句をいう若いドラゴンには驚いたの~」


 初めて会った時のことだ。

 その後、戦うことになったが当然、妾の勝利じゃった。

 それから何度も戦いを挑んでくるグラちゃん。

 その度に、父親から「息子がすまない」と謝られていたことも――。

 昔の名前グランドル。

 記憶に残っていないが、いつの間にかグランドルをグラちゃんと呼んでいた。

 妾のこともアルと呼んでい良いと言ったが、他のドラゴンたちからの反発があったので、妾が折れたのじゃったな……。

 妾と一緒に、いたずらをして叱られたこと。

 惚れたドラゴンがいると、恥ずかしそうに話したこと。

 そのメスドラゴンとつがいになれたこと。

 子供が生まれたのを、一緒に喜んだこと。

 そして、徐々に凶暴になっていったドラゴンロードの父親を、妾と二人で殺してグランニールの名を継いだこと。

 今になって思えば、その時も同じようなことを頼まれていた。

 だからこそ、グラちゃんも同じことを考えたのだと思う。


「グラちゃん……悪かったの」


 すぐに殺してあげられなかったことに、謝罪をする。

 妾の覚悟が足りなかったせいで、グラちゃんを苦しめることになってしまった――。


「そうじゃ、グラちゃんの好きだった火龍酒も持ってこればよかったの……気が利かぬ妾を許してくれ」


 当たり前だが、どれだけ話をしても言葉が返ってくることはない。


「少しだけ、待っててくれるかの?」


 妾は火龍酒を取りに戻る。




「待たせたのじゃ。グラちゃんの分じゃ」


 一緒に持って来たグラスに火龍酒を注ぐ。


「乾杯……」


 地面に置いたグラスに、持ったグラスをぶつける。

 一度、持っていたグラスに視線を移してグラスを傾ける。

 二人で呑んでいた時を思い出す。

 夜中に二人で抜け出して呑み明かしたこと。

 翌日には、二人して叱られた……。

 今となっては、どれも懐かしい思い出――。


「そろそろ、行こうかの。タクトたちを、あまり待たせるのも悪いからの」


 火龍酒の樽を持ち上げて、鎖の方へと投げる。


「大酒のみのグラちゃんには足りぬじゃろうが、我慢して欲しいのじゃ。また、来るからの」


(待っておるぞ!)


 笑顔で話すグラちゃんの姿が見えた。

 錯覚なのは間違いないが、嬉しい気持ちになる。


「約束は守るから、安心するのじゃ!」


 妾も自然と笑顔になり、タクトたちの元へと戻る。



 歩いて行くと、タクトとライラの姿を発見する。

 なにやら二人して難しい顔で話をしているようじゃ。


 タクトが妾の姿に気付いたようで、妾のほうを見ている。


「遅くなって、悪かったの……」


 タクトに向かって話した言葉が先程、グラチャンにも話した言葉だと気付く。


「……納得いや、満足したのか?」

「一応じゃがな……」


 やはり、言葉が返ってくるのは嬉しい。

 今迄も同じように、多くの者たちと別れを経験してきた。

 しかし、心の中の穴が空いた感じになったのは、ロッソが居なくなり、グラちゃんもいなくなった時だけだった。

 寿命の短い者たちは、妾よりも絆を深めると聞いたことがある。

 その者たちは、今の妾と同じ気持ちになっているのだろうか……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ