835話 師匠と先生!
俺と会っていない間の話をするライラの顔は、自然と笑顔になっていた。
騎士団とも仲良くなり、王宮治療士であるクレストの指導のもと、治癒魔法もかなり使いこなせるようになったらしい。
ただ、クレストとコスカは、仲があまり良くないので、クレストを師匠とは呼べずにいるそうで、ライラは『先生』とクレストのことを呼んでいるそうだ。
「コスカらしいな」
「はい‼」
「コスカは、王都にいないのか?」
「お兄ちゃんが倒した敵の調査とかで、どっかに行っているみたいだよ」
「そうなのか……」
多分、魔物暴走や、魔物行進の被害調査をしているのだろう。
もし、多大な被害地域があれば、すぐに救援する必要がある。
「お兄ちゃん!」
「なんだ?」
「その――お兄ちゃんと戦ってみたいんだけど……」
「それは、自分がどれだけ強くなったかを俺に見せるってことか?」
「うん」
前に戦った時は、コスカと二人がかりだった。
しかも、俺との記憶は失っていた。
ライラとしても、納得できないのだろう。
「いいけど、騎士団の訓練場は面倒なことになるし……あっ!」
俺はうってつけの場所を思い出す。
そして俺は、その場所を訪れる必要があった。
「別の場所でもいいか?」
「うん、いいよ」
俺はライラを連れて、その場所へと移動した。
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「ここは?」
見知らぬ場所に連れて来られたライラは、周囲を見渡していた。
知らない魔物の姿に、少し怯えているようにも思えた。
「待たせたの!」
アルが目の前に現れた。
「あれ、ネロは?」
「あやつは、なにやら用事があると言っておったぞ」
「そうか。アルは――あれから、この場所に来たことがあるのか?」
「いいや。なんとなく、足が遠のいておったからな」
アルに俺はライラと稽古をつけると、説明をする。
「それよりも、この辺りの魔物を倒せるかの方が余程、実戦的じゃろう」
「確かに……」
しかし、うかつに動けば、ライラがボムモスキートの餌食になってしまう。
一番弱い者を狙う習性があるからだ。
「……私、やってみる!」
ライラは真剣な目で、俺を見つめた。
「分かった。危なくなったら、俺たちも手を出すからな」
「うん」
ライラは頷く。
「アル! ライラの相手になるような奴はいるか?」
「ん~、そうじゃの。ライラの実力がいまいち分かっておらぬが、あやつなら――」
アルは姿を消す。
しかし、一瞬で魔物を捕まえて戻って来た。
「こやつは、バレットモンキーじゃ。かなり手強いぞ! タクトは【結界】を張っておいたほうが、よいじゃろう」
「分かった」
俺はアルの言うとおりに【結界】を張り、他への被害が出ないようにするとともに、バレットモンキーが逃げ出さないようにする。
未知なる魔物に緊張するライラ。
しかし、アルの言う通りだ。
訓練は所詮、訓練だ。命を落とす危険もないなかでの、戦いになる。
強さを上げるためには、実戦を積んだほうが効率的だ。
そして、実力を確認するののも同じだろう。
訓練ばかりしていると、イレギュラーな対応ができなくなったりする。
騎士団を相手に、訓練ばかりしていたライラにとって、それがよかったのかは分からない。
今からの戦いを見れば、おのずと答えは見えてくる。
アルの気迫で大人しくなっているバレットモンキーだが、ライラを獲物として見ていることだけは分かっていた。
確実に、自分よりも格下の存在だと分かっているのだろう。
「大丈夫か?」
「うん、大丈夫」
「戦える状態になったら、教えてくれるか?」
「……私は、いつでも戦えるよ!」
そう話すライラは、立派な冒険者の顔つきだった‼
いつまでも、半人前扱いしていた自分を恥じながら、冒険者としての成長を期待する。
「じゃあ、バレットモンキーを放つぞ!」
「うん‼」
俺はアルに合図を送ると、アルはバレットモンキーから手を放す。
地面に着地したバレットモンキーは、ライラの方へと凄い勢いで突進した‼