834話 ライラとの再会!
ゴンド村の人々や、マリーにフラン、ムラサキやシキブたちが俺の記憶を取り戻してから二日が経った。
以降も、俺との記憶を取り戻したことでも問い合わせが多くあった。
ルーカスたちは記憶が戻っていないので、俺と接した時期や、長さが関係しているのだろう。
マリー経由で、狐人族のライラも記憶を取り戻したことが分かった。
どうしても、俺と話をしたいというので、王都へと向かうことにした。
ライラは今、コスカの弟子として王宮にいるからだ。
ライラは王宮騎士団と訓練も行っている。
仕方がないので、王宮騎士団の訓練をしている場所へ行くことにした。
訓練場に着くと、激しく武器が衝突する音や、声が響いていた。
さすがは、王国騎士団というべきだ! と感心する。
ガルプとの戦いで、自分たちが非力だと認識したのか、訓練にも気合が入っているのだろう。
「お兄さん‼」
俺は反応して振り向くと、見覚えのある顔だった。
回復魔術士のクレストだった。
「……俺に何か用か?」
「お兄さんって、噂の冒険者タクトでしょう」
「あぁ、そうだが――」
「やっぱり!」
あいかわらず、体をクネクネと動かしながら話をする。
「僕は王宮治療士のクレスト! よろしくね‼」
バレリーナのように踊りながら自己紹介をする。
以前にパートナーを組んでいたジョイナスは、『華撃隊』として、カーディフや、ナイル、コスカたちとエルドラード王国の危機にならないようにと日々、戦っている。
クレストが、王宮治療士の打診を受けていることは知っていた。
どうやら、正式に王宮治療士として活動をしているようだ。
「その王宮治療士が、こんなところで何をしているんだ?」
「何って、けがをした騎士団の治療をするためだよ。騎士の人たち、物凄く気合入っているからね」
一回転したり、意味不明な手の動きを見せたりと、話の内容と一致しない動きだった。
「お兄さんこそ、こんなところに、なんの用なの?」
「知り合いに会いに来ただけだ」
「知り合い?」
クレストは俺の視線を追うと、知り合いがライラだと分かったようだ。
「うっそ~! お兄さんとライラちゃんは知り合いなの~!」
オーバーアクションを、さらにオーバーにしたように驚くクレスト。
その光景に驚き、手を止める騎士団……変な意味で、注目されている。
「お兄ちゃん‼」
俺の姿に気付いたライラが駆け寄ってきた。
駆け寄るライラに騎士団の視線が集まる。
「はぁ、はぁ――」
「そんなに急いで来なくても、大丈夫だぞ」
優しく話す俺に、ライラは大きく頭を横に振る。
「違うの‼」
真剣な表情をするライラ。
クレストは、自分が部外者だと感じたのか、「またね~」と言いながら、踊るように去っていった。
「場所を変えるか?」
「うん」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
俺は誰にも邪魔のされない、城の屋根部に【転移】で移動した。
「怖くないか?」
「うん、大丈夫だよ」
屈託のない笑顔でライラは応えた。
「話ってのは、俺のことを忘れていたってことか?」
「……うん」
ライラは申し訳なさそうに頷く。
「ライラは悪くない。いや、ライラを含めて誰も悪くはないことだ。気にしなくてもいいからな」
「でも――」
「何を気にしていた?」
俺はライラの気持ちを聞く事にした。
ライラは、俺のことを忘れていたことは勿論、レクタスのせいで俺が悪者扱いにされるような発言をしたことを同じ狐人族として、申し訳ないと言う。
そして、俺になにかあれば、少しでも力になるようにと強くなったはずだったのに、その目的自体を見失っていたこと……悔しそうだった。
「ライラが、そう思っていてくれるだけで、俺は嬉しいぞ」
「お兄ちゃん!」
「でもな、俺のために強くなるのは違うかな。強くなるのは、あくまでライラ自身だし、強くなったことで誰かを守れるのであれば、いいと思うぞ」
「……そうかな?」
「ライラは、弱い人や困っている人を助けたいと思っているんだろう?」
「うん」
「それが本当のライラの目標じゃないのかな?」
ライラは考えていた。
特定の相手を目標にした場合、その相手がいなくなってしまったら目標も失うことになる。
守る相手がいるのであれば別だが、ライラの場合は違う。
曖昧な目標で、自分が強くならなくては! と思っていた方が良いと俺は感じた