82話 魔王の師匠!
「シキブ!」
俺の声で、我に返る。
一応アル達に、礼を言う。
レベルの違いが大きすぎて、理解が出来なくなっているのだろう。
特に脳筋の格闘バカふたりは、力の差に愕然としている。
「失礼ですが、貴方達がタクトに負けたのは事実なのですか?」
「おぉ、何十回も戦ったが一度も勝てなんだぞ。 なぁ、ネロ」
「そうなの~、師匠には全敗なの~!」
「えっ! 何十回戦って、一度も勝てない……」
シキブが俺を見る目が怖い……
魔王にゲームで勝ったとは、今更言いにくいよな……
「だから、タクトは妾たちの師匠なのだ」
「そうなの~!」
「師匠の友は、妾達の友でもある! ゴンド村と同じだ」
「……ゴンド村と同じ?」
シキブが敏感に反応した!
「おぉ、村が魔物に襲われない様に、グランニール達に守らせているぞ」
「グランニールって、ドラゴン族最強のグランニールか!」
ムラサキが興奮気味だ!
「おぉ、そうじゃ! あいつも有名になったな。 タクトが、村を気に入っていたので守らせておる」
「それで、タクトさんは『グランニールの髭』を持っていたんですね」
カンナが、商人ギルドの試験の事を思い出したかのように口にした。
「グランニールの髭ですって! 王都に豪邸を建てれる位の価値があるんですよね」
何故かイリアが、異常に興奮している。
「まぁ、色々あってだな……」
頬を掻きながら、目線を逸らす。
五人の視線は、完全に独り占めだ……
「魔族が、人族の村を守るなんて聞いたことないですわ……」
冷静になったイリアは、ドラゴンに守られるという事を疑っている。
まぁ、そうなるだろう。
「それなら、ゴンド村からの証人を連れて来た方が良いか?」
「えぇ、そうね。 御願い出来る」
「あぁ、すぐに連絡を取る」
フランとマリーに、冒険者のギルド会館に来て貰うように連絡を取る。
受付嬢にはイリアから連絡を入れて貰った。
「お前ら、あっちの部屋で遊んでいろ」
「なんでじゃ!」
「えぇ~!」
素直に聞くふたりじゃないのは、よく分かっている。
しかし、「街でも見学してこい」と気軽にも言えないし……
「シキブ、これってもっとあるか?」
テーブルにある菓子を指差す。
「多分、あると思いますよ。 そうよねぇ、イリア」
「はい、下に菓子やケーキ類は御客様用に常備しております」
「それ、全部買い取るから、こいつらにあげてくれ!」
食べ物で大人しくさせるしかないよな……
「シロ! クロ!」
ふたりを呼ぶと、空中と影から姿を現す。
トグルとカンナは初めて見るので、驚いている。
ローラは、クロが影から出て来た事に、興味を示しているのがスグに分かった。
「アルとネロを連れて、隣の部屋で見張っていてくれ」
とりあえず、監視役はこのふたりで良いだろう。
アルとネロには、「この菓子とケーキを隣で大人しく食べてろ!」と言うと喜んで隣の部屋に移動していった。
絶対に物は壊すなと、何度も言い聞かせた。