828話 姉御!
王女と上位精霊の女子会が終了した。
嫌がるアリエルをミズチとノッチが強制的に帰らせようとしていた。
アリエルは、恋愛話の続きが聞きたいのか、次に会う約束をユキノとしていた。
最後にユキノは、妹のヤヨイと、王国騎士団団長のソディックの話をしていたので、気になっているだろう。
「慌ただしかったな」
「皆さん、良い人? いえ、良い精霊たちでしたね」
「そうだな」
「……その、タクト様は火精霊のホオリン様を探しには行かれないのですか?」
「どうしてだ?」
「ホオリン様だけ、仲間外れにしているようでして――」
「ユキノは優しいな」
「そんなことありません……」
「ミズチやアリエルが、どう思うかは別にして、少し考えてみるか」
「本当ですか! 有難う御座います」
誰にでも分け隔てなく優しいユキノ。
当たり前だが、変わっていないのだと感じた。
突然、視界が塞がれたかのように真っ暗になる。
何かが顔に引っ付いたようだ。
俺は急いでそれを取り外そうと触る。
……どこかで触ったことのある感触だった。
「親びん、ただいまです!」
この声、この感触。間違いなく、ピンクーだ。
「……おかえり。それよりも、なんで俺の顔に引っ付くんだ?」
「それは、私にも分かりません。気付いたら親びんの顔に引っ付いていました」
「この世界に飛ばしたのは誰だった?」
「勿論、エリーヌ様です‼」
あのポンコツ女神の仕業か……。
「タクト様。その生き物は?」
「あぁ、ユキノは初めてだったな。俺の従属でシロとクロの妹分になるジャイアントモモンガのピンクーだ」
「まぁ、そうなんですの!」
ユキノは嬉しそうに近付き、俺に掴まれたままのピンクーに顔を近付ける。
「初めまして、私はユキノと申します。ピンクー様、宜しく御願い致します」
「……親びん。この馴れ馴れしい女は誰ですか?」
俺はピンクーにデコピンをする。
「なっ、なにをするんですか‼」
「おい、ユキノはエルドラード王国第一王女だぞ」
「そっ、そうなんですか……しかし、神の使徒である親びんの方が凄いんじゃないんですか?」
「それは関係ない。因みに俺の婚約者だ」
「……えっ!」
ピンクーは俺の顔を見てふざけていないと感じると、ユキノに視線を移す。
「宜しくお願いします」
ユキノは優しい言葉をピンクーに掛けると、ピンクーの顔から血の気が引いていく。
「おっ、親びんの奥様とは知らずに申し訳御座いませんでした」
ピンクーは必死で頭を下げて、ユキノに謝罪をしていた。
俺がピンクーの首根っこを掴んでいるので、じたばたしているようにしか見えなかった。
「そんな奥様だなんて!」
奥様と言われたユキノは嬉しそうに、頬を赤らめていた。
「親びんの奥様であれば、姉御とお呼びすれば宜しいでしょうか?」
親びんに姉御……任侠映画に出て来るような台詞だ。
「お好きな呼び方で構いませんよ」
ユキノは動じることなく、嬉しそうに答える。
「はい、姉御。これからも宜しく御願い致します」
「こちらこそ、ピンクー様宜しく御願い致しますね」
「私の事は、ピンクーとお呼び下さい」
「分かりました。では、シロさんやクロさんと同じように、ピンクーさんとお呼び致しますね」
「はい‼」
ピンクーは許して貰った嬉しさか、叱られなかった事の安堵感からか、安らかな表情だった。
「それで戻って来たって事は、問題解決したって事か?」
「はい。モクレン様から新しい能力も授かりました」
「新しい能力?」
「はい。親びんも驚きますよ‼」
「それは今、見せられるか?」
「はい、勿論です‼」
目を輝かせながら、俺を直視する。
俺は手を放して、ピンクーを床に下ろす。
「親びんに姉御! よく見ていてくださいね」
ピンクーは指を絡めると、小声で何か呟く。
一瞬、ピンクーの体が光る。
光が消えると、子供が立っていた。
「ピンクーか?」
「はい、親びん。私も人型に変化出来るようになったんです」
「はぁ、それは良かったな……」
おでこ全開で、茶髪でセミロング。
身長はアルやネロよりも小さい。低学年の小学生と言った感じで、ランドセルが良く似合いそうだ。
その割にはアルやネロよりも胸がある。
服装だが、胸部と下腹部か獣の皮で出来たビキニのようなもので覆われているだけだ。
なんともアンバランスな体形と服装だ……。
「どうです、親びん!」
「……あぁ、良かったな」
無邪気なピンクーは、喜びのあまり俺に抱き着いて来る。
性的感情は全く無いが、犯罪を犯している気分になる……。