824話 項垂れる国王-1!
俺はアルとネロと一緒に、城のバルコニーへと到着する。
振り向くと、俺たちに歓声を上げてくれている。
ヒイラギから事情を聞いたとはいえ、この世界の人々は、記憶を改ざんされているような気がして、複雑な心境だった。
俺自身も気付いていないだけで、ピンクーの事を忘れていたように、記憶を改ざんされているのかも知れない。
自分が気付いていない‼ この事がとても恐ろしいと感じる。
神の気分次第で、人族と魔族が対立する構図になれば、俺はアルやネロとも、何の違和感も感じずに戦うことになるからだ――。
「どうしたのじゃ?」
「あぁ、少し考え事をしていただけだ」
「そうか……やはり、お主はその喋り方の方が、お主らしいな」
「そうなの~、それでこそ師匠なの~」
俺はアルとネロの言葉を聞いて、少し微笑む。
「お戻りになられましたか」
大臣のジャジーが迎えてくれた。
「突然、飛び出して悪かったな」
「いえいえ、国民の命を救って頂き有難う御座います」
ジャジーは、俺たちに礼を言う。
俺たちが建物の倒壊を防いでいる間に、ルーカスの演説は終了したようだ。
演説の時間が決まっていたようで、俺たちの事を気にしていたようだが半強制的に終えたようだ。
「国王様たちが、先程のお部屋で御待ちしております」
「……まだ、用があるのか?」
「その……詳しくは分かりませんが、フリーゼ様から連絡を貰ったのですが、話を聞くうちに国王様の表情が、どんどんと顔色が悪くなりまして……」
ルーカスの姉であるフリーゼ。
俺が蘇生させた人物だ。
そして、ルーカスが逆らうことが出来ない数少ない人物でもある。
蘇生させてから、俺はフリーゼに会っていない。
記憶が戻ったフリーゼだが、冥界のことも覚えているのだろうか?
ユキノに、その事は聞いていないので、少し気になった。
「妾たちは帰ってもいいのか?」
「多分、いいと思うが国王が待っている部屋までは、とりあえず一緒に行ってくれるか?」
「分かったのじゃ」
俺たちはジャジーと一緒に、ルーカスたちが待つ部屋まで、ジャジーの後ろをついて移動する。
移動中に、アルとネロに用事が無いのであれば、帰したいことをジャジーに伝える。
「分かりました。部屋に着きましたら、国王様にお聞きしてみます」
「頼む」
その後、アルとネロと雑談をしながら進む。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
部屋に入ると、ルーカスは肘をつき下を向いていた。
明らかに元気が無い。
フリーゼに何を言われたのだろうか?
十中八九、俺に関係することだろうが……。
俺は王妃であるイースが、この場に居ない事に気付く。
ユキノの所へ行ったのだろうと思う。
ルーカスの項垂れ具合を、護衛衆の三人は困惑した表情で、ルーカスを見ていた。
それは、元護衛衆のカルアも同じだった。
「国王様‼」
部屋に入ったはいいが、ルーカスが一向に何も話さないのに痺れを切らしたジャジーが、ルーカスに声を掛ける。
「おぉ、悪い」
顔を上げたルーカスだったが、聞いていた通り顔色が悪い。
「国王様。アルシオーネ様とネロ様が、御用事が無ければお戻りになりたいとのことです」
「……そうか」
ルーカスは立ち上がると、アルとネロの顔を見る。
「アルシオーネ様にネロ様。色々と有難う御座いました」
ルーカスはアルとネロに礼を述べた。
「うむ。気にするな」
「そうなの~」
アルとネロは、素っ気ない言葉を返す。
「カルアも戻るか?」
「はい。そうさせて頂きます。国王様、私は帰りますが、私の力が必要な時は、御声を掛けて下さい」
「そうか。その時は呼ぶので、宜しく頼む」
「はい」
カルアはルーカスに挨拶をするが、ルーカスは何処か上の空のようだ。
その後、アスランや護衛衆にも、カルアは別れの挨拶をした。
「じゃぁ、妾たちは帰るか」
「じゃあなの~、師匠~」
「あぁ。又、後でな」
アルとネロは笑顔だったが、カルアの表情は来た時と同じだった――。




