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820話 問題解決会議-4!

 よく見ると、ルーカスは何も読まずに話していた。

 話す内容を全て覚えているのだろうか?


 国民の何人かが、何か叫んでいる。

 しかし、その声がルーカスまで届く事は無かった。

 同じように、ルーカスの声が、何処まで届いているのか疑問だった――。


 最初に俺が呼ばれ、アルとネロの順に紹介される。

 歓迎ムードに俺は戸惑うが、アルとネロは満更でもない様子だった。


「下がって良いぞ」


 俺たちは一言も喋ることなく、奥へと戻るろうとする。

 しかし、ルーカスの少し後ろで待機するように大臣であるメントラから指示された。

 一応、俺たちは最後まで群衆に姿を見せておくということなのだろう。


 続けて、ルーカスはターセルのことについて、説明を始めた。


「ターセルは、国の為によく尽くしてくれた優秀な鑑定士だった。魔族の支配を受けていたことは、ガルプも言ったようにターセル本人も自覚が無かったのだろう。自覚が無いとはいえ、魔族の手先だった事には違いない――しかし、自覚無く利用されて、ガルプに都合で殺されてしまったターセルは罪人だろうか?」


 ルーカスは国民に問う。

 問われた群衆は静まり返る。


「私はターセルが不憫だと思う。真実を告げられた時、自分を責めただろう。弁解する事も無く、罪の意識を持ったまま、ガルプに殺されたターセルは罪人だろうか?」


 ルーカスは一呼吸置くと、今迄よりも感情を込めたのか大きな声を上げる。


「否‼ ターセルは被害者だ‼」


 力説するルーカス。

 俺は静寂した中、拍手をする。

 俺の拍手に触発されるように、小さな拍手が一つ二つと鳴り、徐々に大きくなっていった。

 ルーカスは俺の方を一瞬だけ見ると、右手を大きく上げた。

 それが合図かのように、拍手が鳴りやむ。

 俺も拍手を止めた。


「感謝する。皆が優しい民であり、余は本当に誇りに思う」


 ルーカスの言葉で再び、拍手が湧き起こった。


「……変じゃの?」

「アルも気になったか?」

「妾たちが、こう簡単に受け入れられるのは、変じゃ‼」

「そうね。アルは元人族だから分からなくは無いが、私は生粋の魔族だしね」

「……ローネか⁉ 怒りで変わったわけじゃないよな?」

「えぇ、難しい話になりそうだったから、私と変わったわ。今後は、上手くネロと共存出来そうね」

「それは――セフィーロの死が原因か?」

「そうね。多少は影響があるわね。それよりも――」

「そうだな。すんなり、受け入れられるのには俺もずっと違和感を感じていた」


 俺を含めてアルとネロの三人は、怪訝な顔を浮かべる。

 そんな俺たちを横目で見ていたメントラたち大臣は、機嫌を損ねたと思ったのか、表情が強張っていた。


「最後に、魔族との共存を試みたいと思う。当然、賛否両論あるだろう。しかし、魔族の中でも言葉が通じ、我ら人族と交易出来る者たちもいると思っている。アラクネ族や、ドワーフ族などだ。彼らの生産する物は、人族にとって有益な物だ。これにより、人族の暮らしが良くなると、余は信じている」


 群衆が、口々に話し始める。

 当然、国民の中には、魔族に対して嫌悪感を抱いている者が多数だろう。


「すぐに変わるとは思っていない。実験的にだが、余は試してみたい。人族いや、この世界エクシズの発展を――‼」


 俺は拍手をしようと思ったが、俺が拍手するとルーカスの不利になると思い、手を叩く動作を途中で止めた。

 しかし、隣で手を叩く音がした。

 拍手をしていたのはアルだった。

 アルは、そのまま歩き始めると、ルーカスの隣で止まった。


「長年、生きてきた妾から一つ言いたい。妾たち龍人族は昔、人族じゃった」


 アルの言葉で、群衆が騒ぎ始めた。


「知っての通り、龍人族とドラゴン族は密接な関係じゃ。昔、人族がドラゴンの素材を乱獲した時期があり、ドラゴン族が全滅しそうになったため、我が龍人族は、ドラゴン族についたのじゃ。その事が原因で、人族から疎まれて、人族を裏切った種族として、魔族にさせられた。お主らが、妾の言葉を疑うかも知れんが、これは事実じゃ。つまり、人族と魔族。その違いに疑問を持ったものは――おったか?」


 アルは群衆を見ながら、話を一旦止めた。


「人族と魔族が争うことを否定するつもりは無い。人族にとって魔族は害をなす存在だからの。しかし、狼人族がホワイトファング、猫人族がエターナルキャットなどと、独自で崇めたり神格化している魔物たちもいるじゃろう。それらが他の種族から無差別に狩猟されたら、どうする?」


 群衆の反応を探るように又、話を止めた。


「答えは出ぬじゃろう。何が自分たちの敵で、守るべきものが何かを今一度、考える時期に来ているのかも知れぬ。妾は、お主たちの国王の意見を尊重するつもりじゃ‼」

「それは、私たち吸血鬼族も同じです」


 アルの演説の後に、ネロいやローネが話す。

 敢えて、吸血鬼族を『私』でなく『私たち』と言ったのは、いずれは仲間を増やすということなのだろう。


 アルとネロは、静かに振り向いて俺の隣に戻って来た。


「見事な演説だったな」

「だてに長生きはしておらぬし、いい機会じゃったので、あ奴らの知らぬ歴史の真実を教えてやっただけじゃ」


 アルは面倒臭そうに話した。

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