819話 問題解決会議-3!
ルーカスの国民への説明が正式に発表された。
一時間後にも関わらず、誰も動こうとはしなかった。
俺はアルとネロ、カルアの四人で、部屋で待機していた。
「タクトよ」
「ん、なんだ?」
「妾も、死ぬのじゃな……」
アルの言葉が変だったが、不死で無いことを再確認してきたのだと分かった。
「あぁ、そうだ。成長もするから、姿も変わるだろうな」
「なるほどの……」
「どうかしたのか?」
「いや、死というものを理解する必要があると思っただけじゃ」
最初から条件付きとはいえ、【不死】のスキルを持っていたから、『死』というものを理解出来なかったのだろう。
「ネロ!」
「なんなの~?」
「ネロは、仲間を増やすのか?」
「ん~、まだ分からないの~」
亡くなったセフィーロから、ヴァンパイアロードを引き継ぐことになるネロ。
俺は、そのことが気になり声を掛けた。
ネロも気持ちの整理がついていないようで、明確な答えが出ていないようだ。
「悩むようなことがあれば、相談してくれよ」
「分かったの~。すぐに、師匠に相談するの~」
屈託のない笑顔で応えてくれた。
俺も笑顔で応えた。
カルアを時折、様子を見てみるが、まだロッソの死から立ち直っていないようだ。
俺との記憶も戻っていないようだ。
時間になったのか、衛兵が迎えに来た。
「お主は、どうする?」
アルがカルアに聞く。
「私は部外者なので、ここで待機しております」
「そうか、分かった」
カルアを残して、俺たちは衛兵に案内されて、ルーカスたちが待つ場所まで移動した。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
大臣のメントラが、城から姿を現すと集まった群衆が大きく騒ぎ始めた。
罵声の類は無く、ルーカスを称賛する声が聞こえる。
俺は、この光景に違和感を覚える。
何故、ルーカスがここまで称賛されるのだろうかと――。
護衛衆のロキサーニとステラが登場して、安全を確認してから
ルーカスが登場する。
ルーカスの隣には王妃であるイースと、第一王子のアスラン。
後ろには護衛衆のセルテートがいた。
ヤヨイはこの場に居なかった。
どうやら、寝ているユキノに付き添っているそうだ。
ユキノが目を覚まし次第、こちらに向かうと大臣たちが話していた。
ルーカスは、まず最初に今回の襲撃で亡くなった人々たちを追悼する。
そして、順を追って説明を始めた。
まず、魔物行進を先導したのは、ガルプという魔族。
その魔族が、エビルドラゴンを従えていたこと。
そして、ガルプが第五柱魔王で、同じ魔王である第三柱魔王のロッソを手に掛けたこと。
ある程度は映像で見ていた為か、国民たちはルーカスの説明を素直に受け入れていた。
俺は【望遠】を使用して、群衆の中で不審な動きをする者が居ないかを確認する。
怪しい奴は何人か居るが――特に、何か出来る訳でも無いし、距離が遠い。
あの距離から攻撃を仕掛ければ、護衛衆が余裕で対処出来るだろう。
「では、魔王について順に説明を行いたい」
一通り、魔物行進による王都襲撃の説明を終えると、個別の説明を始めた。
まず、脅威となる魔王についての説明を始めるようだ。
「魔王について話す前に、人族であり第四柱魔王タクトと、我が娘であり第一王女ユキノの蘇生について話したいと思う」
確かに、俺のことを話すのであれば、ユキノの蘇生は避けては通れない話だろう。
人々の記憶から消えてはいるが、俺がゴブリンロードやオークロードを討伐したパーティーの一人だと説明をする。
その後、冒険者ランクSSSである為、人々の脅威となる魔物を率先して倒した為、魔族たちから恐怖の対象となり、魔王になったと説明をした。
魔王になった後も、今迄と変わらずに冒険者として、魔族から人族を守るために戦っていたこと。
そして、先の城崩壊になった際に、魔族によって殺されたユキノを蘇生させた。
蘇生は偶然、手に入れたスキルで一生に一度しか使えない。
禁呪の類なのか、その代償として、人族はタクトの繋がりである記憶を消されたと説明した。
俺にも事情徴収した際に、「いち冒険者の自分よりも、王女であるユキノを助ける方が大事だ」と話した事も伝えてた。
この言葉を聞いた群衆から、大きな声と拍手が上がる。
俺は又、違和感を感じる。
何故、ここに集まった多くの国民は、ここまで好意的に受け入れているのだろうか?
あまりにも、スムーズに事が進んでいるのが、不思議だった――。
「そして、その第四柱魔王であるタクトは、古来より最強魔王と名高い第一柱魔王アルシオーネ様と第二柱魔王ネロ様を倒して、二人を弟子にした」
又も群衆から、声が上がる。
「尚、魔物行進より王都を救って頂いた為、アルシオーネ様とネロ様については、敬意を示して敬称を付けている」
アルとネロに『様』付けで呼ぶことを説明した。
ここで、俺とアルにネロの三人が呼ばれる。
俺たちが登場すると、群衆は今迄以上に盛り上がった。
明らかに変だ――。
こんなに好意的に受け入れられる訳が無い。
嫌な胸騒ぎを感じながら、進行を止めることなく群衆を見ていた。