812話 説明責任ー7!
俺は記憶を取り戻したユキノに、記憶が戻った時の事を詳しく聞く。
話を聞く限り、俺がガルプを倒した時に、今迄の記憶が一気に戻ったようだ。
ユキノは、自責の念で暫く、なにも考えられなかったと言っていた。
何より、自分が愛する俺を忘れていたことが、ショックだったようだ。
俺は何故、ユキノの記憶が戻ったのかが気になった。
もう、会うことが無いと思っていたオーカスに会う必要があると思うと、少し気が引ける。
しかし、状況を確認しなければ、問題が大きくなることも考えられる。
ユキノとの話が終わった時にでも、オーカスに連絡を取ることにする。
「……タクト様」
「なんだ?」
「その――私は今でもタクト様の、こ、婚約者でしょうか⁉」
「俺はユキノことを好きだが、ユキノは俺を嫌いになったのか?」
「そんなことありません‼ タクト様が私を好きだと思って下さっているよりも、私の方がタクト様のことを愛しております」
ユキノが顔を赤らめながら必死で訴える。
俺は、俺の知っているユキノが戻って来たようで嬉しかった。
「そうか。じゃあ、俺たちは婚約しているということだな」
「はい‼」
簡単に婚約という言葉を口にしたが、ルーカスたちは、昔のことを知らない。
突然、発表すれば困惑すること間違いない。
「ユキノは記憶が戻ったが、国王たちは以前の俺たちの関係を知らないので、少しだけ秘密にしておいてくれるか?」
「二人だけの秘密ですね」
ユキノは嬉しそうだった。
以前の俺が知っているユキノだった。
ユキノ以上に、俺が嬉しいのだと感じていた。
「疲れただろうし、少し休んだらどうだ?」
「嫌です。タクト様とのことを思い出したばかりななのに――」
「これからは、二人の時間は幾らでもあるから、今はゆっくり休め」
「タクト様が、そうおっしゃるのなら……」
ユキノは横になると、左手を布団から出す。
俺は何も言わずに、その左手を握ると、ユキノは嬉しそうに頬を赤らめていた。
暫くすると、ユキノは目を閉じて眠りについた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
スキルの【蘇生】を使用して、冥界に来た。
到着と同時に、オーカスの使者が現れるので、オーカスに会いたいことを伝える。
暫くすると、俺の前にオーカスが現れた。
「別れてから、間もないがどうした?」
「本当にすいません。その、以前に【蘇生】のスキルを使用した代償のことで伺いたいことがあります」
「あぁ、その事か」
オーカスは心当たりがあるようだった。
「今回、ガルプとアデムが起こした問題で、お前が蘇生させた者や、縁が深い者たち数人は記憶が戻っている」
「えっ、そうなんですか?」
「他の者達も時間と共に、お前のことを思い出すだろう」
「それは、時間が過ぎれば元に戻るということですか?」
「まぁ、そういうことだ。ヒイラギの計らいだ」
「ヒイラギ様の――」
「あぁ、会うことがあれば、礼を言っておくことを勧める」
「そうですね……」
正直、ヒイラギと会うことは気まずい。
ヒイラギというよりは、モクレンやエリーヌたち神と会うこと自体、気まずい。
しかし、礼は言わなければならない。
「用件はそれだけか?」
「はい、そうです。お忙しい所、申し訳ありませんでした」
「そうか……私からも、お前に頼みたいことがある」
「何でしょうか?」
オーカスの頼みと言うのは、デュラハンのエテルナのことだった。
死期を知らせるデュラハンは、試験的にオーカスが現世に送り出した者だったらしい。
しかし、死期を知らせるだけのデュラハンは、冥界にとってと特別な存在となる。
死期を知らせたところで、冥界にとっては得になることはなかったのだ。
オーカスは死期を知らせることで、冥界と連携して業務を円滑に行うつもりでいたが、デュラハンのエテルナが一人で働いたところで、大きく業務が改善されることは無かったのだ。
毎日、何十何百と命が失われる中、死者数人の事前連絡を貰ったところで、あまり関係の無いことだったからだ。
次第に、エテルナの存在意義が失われる。
オーカスは、自分のせいでエテルナに不憫な思いをさせるのが申し訳ないと思っていたが、現世で活動するエテルナに手を差し伸べることは出来なかった。
たまたま、樹精霊のオリヴィアがロッソを紹介したことで、少しだけ接点を持つことが出来たそうだ。
しかし、その頃にはオリヴィアはオーカスに対して、良い印象を持ってなかった。
オーカスの使者から数十年前に、連絡した際に、存在自体が不要だと言われたからだ。
それから、エテルナは冥界への連絡を放棄するようになる。
しかし、死期が近い者たちに死ぬことだけを伝え回っている生活は、変わらずに送っていた。
オーカスは、そのことでエテルナに対して、若干の負い目を感じているようだった。
「私の仲間がエテルナさんの捜索をしていますし、エテルナさんが嫌でなければ住む場所も提供するつもりでいます」
「そうか、少し安心した」
フードに隠れて表情は分からないが、笑っていたのだろうと俺は感じた。