807話 説明責任ー2!
ルーカスとの謁見の場は、いつもの場所では無く、俺も何度か入ったことがあるテーブルが置かれた会食するような部屋だった。
やはり、アルとネロを相手に見下すような場所では、魔王二人に対して失礼だと思い考慮したのだろう。
「第一柱魔王アルシオーネ様、第二柱魔王ネロ様。……第四柱魔王タクト様をお連れ致しました」
部屋の前で、ソディックが大声で到着したことを部屋の中にいるルーカスに伝えた。
俺を魔王と言ったのは、冒険者でなく魔王として、この場に連れてきたことを意味する。
部屋から言葉が返ってくると騎士たちが部屋の扉を開ける。
俺は目に入って来た光景に驚く。
ルーカスをはじめ王族全員が立ったまま待機していた。
横には大臣や護衛衆の三人――王宮鑑定士のターセルの姿は無かった。
部屋にいる人族たちは皆、緊張している雰囲気だった。
重苦しい空気のなか、ルーカスが口を開いた。
「此度は、我がエルドラード王国及び、王都を救っていただき国民を代表して御礼を言わさせて頂きます。本当に感謝しております」
ルーカスが頭を下げると、周囲の者たちも一斉に頭を下げた。
一国の王が頭を下げることなど無い。
しかし、相手は魔王。
どちらが格上とかでなく、一人の人族として頭を下げたのだ。
そして、ルーカスの行為を否定する者もいなかった。
あれだけの力の差を見せつけられれば、太刀打ち出来ないことなど誰もが分かっていたからだ。
しかし、アルとネロも関心が無いようで俺に全て任せるようで、俺の方を見上げていた。
。
「頭を上げてくれ。いつまでも国王に頭を下げられていると、悪い事をしている気分になる」
俺が場を和ませようと、冗談交じりに話す。
すぐにルーカスたちが頭を上げてくれた。
「ターセルを助けることが出来ずに……すまなかった」
「仕方が無いことです。あれは……誰が悪いという訳では無いです。勿論、ターセル自身も含めてです」
「国賊でなく、国の為に亡くなったんだから、遺体は無いが丁重に葬ってやって欲しい」
「はい。約束しましょう」
ルーカスが目線を大臣に向けると、大臣も頷く。
「本題に入ろうか⁈ 俺たちを呼んだ理由はなんだ?」
ユキノの蘇生だけであれば、俺だけ呼べばよい。
アルとネロも同行した理由をルーカスに尋ねた。
「まずはアルシオーネ様たちに対して感謝の意を伝えることです」
「妾たちは、タクトに手を貸しただけじゃ。礼ならタクトに言えばよい」
「そうなの~」
面倒なアルとネロは、俺に全部任せるつもりのようだ。
「勿論です」
「ちょっと、いいか?」
「はい、何でしょうか?」
「俺に対しては敬語で無くていい。俺もエルドラード王国の国民だ。国民に接するのと同じでいい」
ルーカスは困惑していた。
魔王としての俺を取るか、人族として、エルドラード王国の国民としての俺を取るかを迫られているからだろう。
「分かった。タクトに対しては今まで通り、エルドラード国の国民そして、冒険者として接する」
「そうしてくれ。話を遮って悪かった。話を続けてくれ」
俺は、会話を遮ったことを詫びた。
「アルシオーネ様にネロ様。国を守ってくれた者として、私より正式に国民へ発表したいと思っておりますが、如何でしょうか?」
「タクトに任せる」
「師匠に任せるの~」
アルとネロの言葉を聞いてから、俺はルーカスに懸念していることを伝える。
「魔族いや、魔王であるアルやネロを国民が受け入れると思っているのか?」
「魔族による脅威に対して、魔族がその脅威より守ってくれたのも事実だ。その事実……都合の悪いことから、目を背けることは出来ぬ」
ルーカスは真剣な目で、俺たちに話し掛けていた。
「受け入れることに対して、時間が掛かることや、否定的な者も居るのも分かっている」
ルーカスとしても賭けに近いのだろう。
国民の良心に訴えかけるつもりなのだろう。
「私たちも出来る限りのことはするつもりです」
王妃のイースもルーカス同様に真剣な目で話掛ける。
「私も王子として、出来る限り力を尽くさせて頂きます」
王子のアスランも、イースに感化されたのか、力の籠った言葉で訴えた。
俺はアルとネロを見ると、王族たちと違い関心が無いのか、つまらなそうな表情だった。
もしかしたら、今迄にも何度か同じようなことを経験していたのかも知れない。
魔族と人族の共存。
その難しさを誰よりも知っているのは長年、この世界で生きて来たアルとネロの二人だったのかも知れない――。
俺はアルとネロに意見を聞くが案の定、素っ気ない言葉が返ってくるだけだった……。