804話 戦後処理-8!
頭を上げると景色が変わり、エクシズに戻っていた。
エクシズに戻ったことに気付いた俺は、アルとネロの元へと駆け寄る。
「アル! ネロ!」
俺が声を掛けると、アルとネロは目を覚ます。
記憶が混乱しているのか、目を覚まして少しの間、焦点が定まらず呆然としていた。
見ようによっては寝起きが悪いだけのようにも感じるが……。
事態を先に理解したのはネロだった。
ガルプへの怒りを復活させると、それに呼応するようにアルも怒りを爆発させた。
「落ち着け! ガルプは俺が倒した」
アルとネロの殺気は、王都へも影響があるくらい放っていた。
落ち着かせて、ガルプとのことを説明する。
「妾のことを馬鹿にした、あやつは妾が殺したかったのじゃ」
「私もなの~」
「ガルプによって、この世界に転生したアルとネロは、ガルプの支配下だったから仕方が無かっただろう」
「……戦闘中に意識が無くなり、気付いたら――この状態じゃ」
悔しそうな表情をするアルとは対照的に、母親であるセフィーロを殺されたネロの怒りは収まっていなかった。
「そのセフィーロからの伝言だ」
「お母様から?」
「あぁ、貴女の好きなように生きなさい! と――」
「……お母様」
セフィーロはネロに唯一生き残った吸血鬼族としてでなく、ネロ個人として生きて欲しいという意味があるのだろう。
一人で生きていく辛さを知っているセフィーロだからこそ、言える台詞だ。
事情を知っている俺は、言葉の重みも違って感じた。
涙目になっているネロ。
セフィーロの言葉で改めて、吸血鬼族が自分一人だけということを思い出したのかも知れない。
「大丈夫じゃ!」
アルがネロの手をを握り、安心するように言葉を掛ける。
「そうだな。俺たちが居るからな」
ネロが安心するように、ネロの頭を撫でた。
「アル~。師匠~」
必死で涙を堪えながら、笑顔を作っていた。
俺はセフィーロから聞いたヴァンパイアロードとして、種族を増やすことが出来るのは、まだ先だと言うこともネロに伝えた。
「そうなの~。分かったの~」
ネロは自分の置かれた状況を受け入れた。
「タクト!」
「何だ?」
ネロが落ち着きを取り戻したのを確認すると、アルが真剣な顔で俺を読んだ。
「ロッソが死んだのは、本当か?」
「あぁ、本当だ。ガルプがロッソから不死のスキルを無効化して、殺した……」
「不死の無効化――」
「あぁ、ロッソもそうだが、アルとネロのスキル【不死(条件付)】の条件が無効化された為、不死で無くなったという訳だ」
「そうなのか……妾たちも同様ということじゃな」
「あぁ、そういうことになる」
「まぁ、仕方が無いの」
「仕方が無いの~」
二人共、俺が思っていたより、あっさりと受け入れたことに俺は驚いた。
俺は勘違いをしていたのだと、気付く。
アルにネロ、二人とも見た目以上に大人だった。
「妾たちがピンチになれば、師匠が助けてくれるじゃろう」
「そうなの~、師匠は最強なの~」
「俺は、お前たちよりも弱いんだぞ……」
「分かっておる」
「知っているの~」
「……」
「強さとはレベルや能力値だけで測れるものではない。それは、お主も分かっておるじゃろう」
確かに、レベルや能力値でなく、自分の能力を理解して、戦況を有利に進めることが出来れば、格上の相手でも勝利を収めることが出来る。
自分の能力を冷静に分析できない者は、成長も出来ない。
「それよりも、お主はこれから、どうするつもりじゃ?」
「どうするかな……」
「お主が魔王で、妾たちの師匠だと知られただけでも、大事じゃろう。それなのに、王族を生き返らせたことまで知られたのだから、人族たちからの反発もあるじゃろう」
「そうだな。俺だけが非難の的であればいいが、王族やゴンド村までが、非難の矛先が向くのは……困るな」
「じゃが、このままって訳にもいかぬじゃろう」
「確かにそうだが、俺がいきなり王都に入ったら、混乱するだろうしな」
「一人で行くのが不安なら、妾とネロも一緒に行ってやろうか?」
「いや、不安という訳じゃないんだが――」
まるで俺が子ども扱いだ。
しかし、問題の先送りは出来ない。
「御主人様。王都より、こちらに向かってくる者たちがおります」
「えっ!」
シロの言葉に驚く。
王都の方を見ると数十人の騎士団がこちらに向かっていた。