801話 戦後処理-5!
「今回の件は、私自身も反省するところがあった。上級神だからと簡単に信じた私の浅はかさにも原因があった」
冥界を統べる者としての不甲斐なさを感じているようだ。
この件に関して、ヒイラギたちから謝罪などがあったのか気になったが、俺が聞くべきことでは無いことだと思い、言葉を飲み込んだ。
アンデッドロードのロッソが居ない今、アンデッドを呼び出すことが出来る者は少ない。
仮に呼び出して、傍若無人な振る舞いをしたとしても、それを正す者が居ない。
つまり、アンデッドを呼び出すことが出来れば、最強軍団を創ることが出来る。
「いずれ、私と契約をして【死霊魔法】を使う者が現れるだろう」
「契約をするつもりがあるのですか?」
「死者を敬い、死というものを理解出来ればだがな……」
死を理解――。
ロッソのように、リッチ等になればということなのだろうか?
今回の事もあり、オーカスも契約には慎重になるだろう。
しかし、スケルトンやゾンビなどのアンデッドたちのロード。
今迄、ロッソがアンデッドロードとして存在していたが、ロッソが居ない今、アンデッドロードが存在しなければ、魔素が溜まり続けることになるはずだ。
次にアンデッドロードが誕生した場合、それまでに溜まった魔素を一気に受け取ることになるのだろうか……。
「……何を考えている」
無言で険しい顔をしていたのか、オーカスが話し掛ける。
俺が、その問いに即答しなかった為、俺より先にオーカスが話を続けた。
「ロッソとセフィーロであれば、話をさせてやるぞ」
オーカスの言葉に、俺が反応する。
「少し待っていろ」
オーカスは両手を広げて、十本の指を独特な動きを見せる。
すると、一つの光が現れて、ロッソの姿に変わる。
「色々と迷惑を掛けたみたいだな」
相変わらずロッソの表情が分からないが、申し訳なさそうにしている気配がしていた。
「ロッソが簡単にやられると思わなかったよ」
「……面目ない」
「冗談ですよ。気にしないで下さい」
「――話し方が変だな?」
「こちらでは、【呪詛】の影響がありませんからね。本当の私は、こんな話し方ですよ」
「違和感しかないな……」
「そうでしょうね」
表情が変わらないロッソの目じりが下がっているような感じがした。
「勝手なことを言うが、エテルナの事を頼みたいのだが――」
「そうですね。一度、話をしてみます」
「頼む。エテルナは、長年尽くしてくれた……」
「伝えられなかった言葉があれば、私から伝えますよ」
後悔がありそうな口ぶりだったロッソを、俺は察した。
「そうだな……」
ロッソは幾つかの言葉を俺に託した。
その言葉からも、ロッソの優しさが伝わる。
俺とロッソの会話中、オーカスは黙って聞いているだけだった。
エテルナはオーカスの事を知っていたので、知らぬ間柄でも無いと思ったのだが――。
「カルアにも、不甲斐ない師匠で悪かったと伝えてくれるか?」
「分かりました。でも、カルアにとって貴方は立派な師匠であったと思いますよ」
「そうだといいがな。それと、アルシオーネとネロにも悪かったと……そして、先に冥界で待っていると伝えてくれ」
「分かりました。しかし、アルやネロは長生きしますよ」
「それも一興だ。気長に待つとしよう」
言い終わるとロッソは、声をあげて笑った。
「そろそろ、時間か?」
「……そうだな」
ロッソはオーカスに時間の確認をした。
「これで、本当に最後になるな」
「そうですね……色々とありがとうございました」
俺は感謝の言葉を口にして、頭を下げた。
エクシズに転異して、魔王の先輩としてもロッソには色々と学ぶことがあった。
生ある者は必ず死ぬ――別れが来る事は当たり前の事だ。
俺は最後にロッソと握手をする。
ロッソは力強く俺の手を握ってくれた。
無言でお互いの顔を見ている間、オーカスがロッソを俺の前から消え去る動作をしたので、ロッソの体が徐々に光の形へと変わり、最後は光自体も消えていった。