796話 王都襲撃-18!
ガルプの死体を念の為、切り刻む。
魔物たちも正気に戻ったのか、多くの魔物たちは自分の生息地へと戻っていった。
なかには、攻撃されたことに腹を立てているので、そのまま人族を攻撃し続けたりする魔物もいた。
しかし、死者はアンデッドとして蘇ることは無かった。
俺はアルとネロの亡骸へと近付く。
とても、死んでいるとは思えない表情だった。
アルに教えて貰った【神眼】の使い方。
ネロの【操血】。
ガルプに勝てたのは、この二人が居たからこそだ。
「アル。ネロ」
俺は二人の頬に手を当てる。
……温かい! まさか!
俺は二人の心臓に手を当てる。
心臓は動いていない――。
「やはり、俺の気のせいか……」
死んで間もないから、まだ体温が残っていたのだろう。
(主。殆どの魔物討伐が完了しそうです)
クロから連絡を貰う。
(分かった。とりあえず一度、俺の所に来てくれるか?)
(はい。すぐに向かいます)
言い終わると同時に、クロが姿を現した。
「クロ。悪いがアルとネロを保管しておいてくれるか?」
「承知致しました」
クロがアルとネロの亡骸を、影の中へと移動させた。
そして念の為、クロには周囲の様子を確認して貰うことにした。
シロとも連絡を取るが、ルーカスたちには危険は無いようで安心する。
「アリエル。魔物の死体を全て、大地の亀裂に落としてくれ」
「分かったわ」
「ノッチ。アリエルが全て落としたら、大地の亀裂を戻してくれ」
「おぅ」
俺は精霊たちに頼んだ。
「さて……」
俺は空を見ながら、大きく息を吐く。
先程、繋がらなかったが――と思いながら、【神との対話】を発動する。
――やはり、通じない。
呼び出しのような音は鳴るので、敢えてでないようにも感じられる。
意図的に俺との連絡を絶っていると考えた方が良いだろう。
「終わったぞ」
ノッチが作業終了したことを告げる。
「ありがとうな」
ノッチとアリエルに礼を言う。
俺は城壁の近くにいる騎士団の所まで移動をする。
騎士団たちの体が震えているのが分かる。
それに――俺を見る目は明らかに、恐怖の対象だった。
俺の戦闘を目の前で見ていれば、そうなっても仕方が無いと思うし、何より『魔王』という称号に怖気づいてしまっているのだろう。
しかし、騎士団団長のソディックは俺の姿を見るなり、俺の方をしっかりと見ていた。
顔がはっきりと分かる距離まで来ると、俺に向かって頭を下げた。
「タクト殿のおかげで、王都は守られました。王国騎士団団長として、感謝致します」
ソディックの行動に倣うかのように、騎士たちも一斉に頭を下げた。
「俺だけの力じゃない。騎士団や冒険者たちの助けがあったからこそだ」
「いえ、我らの力だけでは――」
「誰もが自分の出来ることを精一杯しただけだ。王都を守ったのは、王都を大事に思う全員だ。それでいいだろう」
「……分かりました」
俺はソディックに、魔物たちの王都への攻撃は止んだこと。
つまり、魔物行進を告げて、ルーカスに報告するよう頼んだ。
「タクト殿も一緒に行かれますか?」
「いや、俺は地面に残った魔物の血などを綺麗にしておこうと思う。それに――俺は魔王だから、王都に入ると面倒だろう?」
「――分かりました。国王様への報告は、私からしておきます」
「悪いな。騎士団が国王のところに着いたら、護衛させている仲間のシロを引き上げさせる」
「承知致しました」
ソディックは、何か言いたげだったが、魔王だと知られた俺が王都に入ることへの危険を分かってくれたようだ。
魔王は人族の敵。
長年、人々の意識に刷り込まれた感情は、そう簡単に変わるものでもない。
それは俺も良く分かっているので、不安を煽るような行動はすべきでは無いと思っている。
俺は 「少しでも早く、街の人々に普通の日常が戻って欲しい」と思い、王都の周囲を【浄化】で綺麗にしていく。
作業をしながら、自分の意思とは関係なく殺された魔物たちもいるのだろうと感じていた。
そして、犠牲になった吸血鬼族たち……。
生存者はいない。
今回の戦いで、吸血鬼族は絶滅した。
そう、セフィーロに後を託されたネロも……。




