791話 王都襲撃-13!
「そんな――まさか、エビルドラゴンに勝ったのですか‼」
形態を変えて余裕を取り戻したプルガリスは驚きの表情に変わる。
そして、視線は俺の後ろに向けられていた。
「……アルか。約束は守ったようだな」
「勿論じゃ」
「――記憶は戻ったのか?」
「最後に少しだけじゃがな……」
「そうか――」
俺は振り向くことなく、背中越しに話をする。
背中から伝わる殺気から、アルの怒りが良く分かる。
先代グランニールとのことは、プルガリスのと戦いを終えた後に聞こう。
「悪いが、こいつは俺が倒すから手を出すなよ」
「分かっておる。そのかわり、胸の奴は妾が預かろう」
「悪いな……ピンクー、アルの所で戦いを見ていてくれ」
「はい、親びん」
ピンクーをアルの方に投げる。
「どうして、思い通りにいかないのですか――」
「なんでも自分の思い通りにいくと思っているお前が、傲慢なんだよ」
「うるさい! 私の計画は完璧だったはずだ。私は間違えていない。このままでは……」
プルガリスは俺を睨みつける。
「くそっ、ガルプ様を殺した神に復讐出来ると思ったのに――」
魔素の塊である黒い玉を幾つも口に放り込んだ。
「ぐぉぉぉぉぉ――――!」
体は更に大きくなり、理性も失ったかのように思えた。
しかし、目の前の変貌を遂げたプルガリスとは別の方向に、【光縛鎖】が動き始める。
「逃がすか!」
俺は【光縛鎖】の先へと移動する。
しかし、鎖の先に繋がっていた生物は干からび、虫の息だった。
「どういう事だ……」
プルガリスが死なない限り、この【光縛鎖】を解くことは出来ない。
目の前の干からびた魔物がプルガリスということには間違いない。
自分の命を依り代にしたのか?
――いや、ずる賢いプルガリスが自分の命を犠牲にすることは考え辛い。
「親びん! そいつは魂を別の奴に乗り換えた可能性があります」
ピンクーが俺に向かって叫ぶ。
「どういうことだ‼」
「クロ兄がガルプスリーの能力は、彷徨う魂を成仏させずに保管することで、どのような姿にでも変身できると言っていました。それと、魂の定着まで時間が掛かるそうです」
俺はピンクーの言葉を聞き、【光縛鎖】の先に繋がっているプルガリスに止めを刺す。
すると、俺と繋がっていた【光縛鎖】は消えた。
「次はあいつか!」
俺は今にも暴れようとする新しいプルガリスに【光縛鎖】を施して、逃走を防ぐ。
「しかし、どうしてクロは直接、俺に言わなかったんだ?」
「クロ兄は親びんが、この事を知っていると敵に知られたら、別の行動を取るかも知れないと言っていました」
「……そういうことか」
俺が知らないからこそ、この方法を最後まで取っていたということになる。
事前に知っていると勘づかれれば、プルガリスも別の方法を考えていたのだろう。
俺は【煉獄】で、自我の無いプルガリスに攻撃をする。
プルガリスは悲鳴を上げるが、致命傷には至っていない。
【一刀両断】で腕を切断しようとしても、半分くらいで止まってしまい、腕を切り落とすことは出来なかった。
つまり、俺よりも強いということは明白だ。
しかし、俺は攻撃を続ける。
次第に自我が戻って来たのか、瞳の色が変わる。
「……なるほど。こういうことか」
生まれ変わった体を確かめるかのように、俺の攻撃を気にすることなく、体を動かして動作を確認していた。
「……お前が、新米神エリーヌの使徒タクトか?」
「何を言っている⁉」
「ん? 後ろにいるのはアルシオーネか。懐かしいの」
俺は咄嗟にアルを見る。
「……お主、何者じゃ」
アルも分からないのか、少し警戒している。
「この格好では分からんのも無理はないだろう。我こそは、この世界を破壊に導く者。そして神ガルプだ‼」
「ガルプだと‼」
ガルプは神の手によって処分されたはずだ。
その為、ロッソは不死で無くなりプルガリスの手によって殺された。
――いや、俺はガルプがどのように処分をされたかを聞かされていない。
処分について聞いたが、明確な回答は貰っていない。
「私が死んだと思ったか? 正確には神である私は死んだ。しかし、ガルプスリーの魂に憑依して、この機会を待っていたのだよ」
「……プルガリスいや、ガルプスリーもお前の駒の一つだったということか?」
「その通り。思うように、この世界が破滅へと進んでくれなかったからな」
「元神とはいえ、世界への介入は違反行為に当たるんじゃないのか?」
「私の心配をしてくれているのか? 思った以上に、お前は優しいんだな。私は特別な存在なのだよ」
俺は【神の導き(改)】を使い、エリーヌに連絡するが繋がらない。
……どういうことだ?
「エリーヌと交信でもしているのか? 無駄なことを」
「お見通しってわけか……」
何故、エリーヌと交信出来ることを知っている。
前任者であるガルプが、俺とエリーヌのことを知っていることは考えにくい。
しかも、神と連絡出来るのも、エリーヌと交渉して得たスキルだ。
他の転移者や転送者には無いスキルだ。
「まぁ、そんなことはどうでもいい。破壊神ガルプ様の降臨だ‼」
ガルプが叫ぶと、空気が震え大地が悲鳴を上げた。
「元神だが知らないが、俺に勝てるつもりでいるのか?」
「お前こそ、神に勝てるつもりでいるのか?」
「あぁ、勝つつもりだ」
「勇気と無謀の違いを知らないようだな。まぁ、いいだろう」
ガルプは格下の者を相手にするかのように、余裕の表情だった。




