790話 王都襲撃-12!
――王都上空。
王都への攻撃を止めた妾をエビルドラゴンは、敵と認識したようだ。
「グランニールよ。妾の言葉が分かるか?」
妾の言葉にエビルドラゴンが反応することは無かった。
第五柱魔王のプルガリスに操られていたかと思ったが、どうやら本能のまま行動しているようだ。
「やはり、通じぬか――」
エビルドラゴン。出現すれば、世界が滅びるとまで言われている、この世界で最も恐れられる伝説の魔物の一匹。
そして、妾の旧友だった。
分かってはいたが、話し掛けずにはいられなかった。
もしかして……と思い少し期待して、言葉を掛けた。
そう「自分が自分で無くなった時は、殺して欲しい」と頼まれていた。
その約束を果たすだけ。
いつか、この時が来る事は覚悟していた――つもりだった。
「ぐおぉぉぉぉ‼」
エビルドラゴンは叫びながら、尾を振り回して攻撃をしてきた。
攻撃を受けるが、ダメージは無い。
昔、遊んでいた時に悪さをして、叱られ叩かれた時の方が痛かった。
「なんで今、思い出してしまうのじゃ――」
どうしても攻撃の手が鈍る。
次第に攻撃の手数も少なくなっていく――。
そう、自分でも分かっている。分かっているのだ。
今迄、何百年と生きていたが、このような気持ちになるのは初めてだ。
親しい者を手に掛けることなど無かったから……。
そう思いながらも、エビルドラゴンへ反撃することなく、攻撃を受け続ける。
エビルドラゴンは攻撃対象の妾が平然としていること、ダメージを追わないことに苛立っていた。
口から吐く炎も上空へと軌道を変え、翼での起こす暴風も腕を振り掻き消す。
「お主は、こんなに弱くないじゃろう‼」
憤りの無い怒りをエビルドラゴンにぶつける。
意思のあるエビルドラゴンいや、グランニールであれば、もっと考えて多彩な攻撃を繰り出す。
分かっている。目の前にいるのはエビルドラゴンで、自分の知っているグランニールではない。
息子でありドラゴン族総帥の現グランニール。
奴もエビルドラゴンの気配を感じて、こちらに来ると言ったが「来るな!」と断った。
実の父親が妾に殺されることは、奴も知っている。
しかし、父親を殺される状況を、わざわざ見る必要はない。
辛い思いでが増えるだけだ。
「くそっ‼」
煮え切らない自分に苛立ちを感じて、口に出してしまう。
気持ちを切り替え、エビルドラゴンへの攻撃を再開する。
首元に蹴りを入れ、地面に叩きつける。
しかし、エビルドラゴンはすぐに体勢を立て直そうとする。
それよりも早く右の翼を引き千切ると、エビルドラゴンは悲鳴を上げる。
この悲鳴だけでも、人族には恐怖を与えて、弱っている物には死に至るほどだ。
王都にいる人族はともかく、周囲の魔物や獣の何匹かは影響が出ただろう。
「もうこれで、飛ぶ事は出来ん」
言葉が通じないと分かっているが話し掛けて、左の翼も引き千切った。
「ぐうぉぉぉ‼」
先程以上の悲鳴に、心が痛む自分がいる。
「許せ……グランニール」
背中から下りて尻尾を掴み、上空へと放り投げる。
エビルドラゴンも首の向きを変えて、妾の方に炎を吐く。
最後の抵抗なのだろう。
「こんな炎では、妾を倒せんことくらい知っておるじゃろう!」
エビルドラゴンに向かい叫ぶ。
妾の体に炎が直撃する。
エビルドラゴンは、着地をしてダメージを最低限に抑えたようだ。
しかし、無傷の妾を発見すると突進してきた。
「苦しまぬようにするのが、せめてもの礼儀か……」
エビルドラゴンの首を切り落とそうとするが一瞬、躊躇うと首で弾き飛ばされる。
……どうしても、思うように体が動いてくれない。
エビルドラゴンと目が合う。
見慣れた顔だ――。
妾はゆっくりと進み、距離を縮める。
辛いのは妾以上に、グランニールの方だ。
妾は何をしていた。
早く、この呪縛からグランニールを解放するべきだ。
「悪かったの」
距離を一気に縮める。
「お別れじゃ……【龍爪斬】!」
エビルドラゴンの首を根元から切り落とす。
首は地面に叩きつけられて、胴体は横に倒れた。
妾はエビルドラゴンの顔に移動して、最後を看取ることにした。
「苦しかったのに、妾が迷っていたばかりに悪かったの……」
言葉が通じないと分かっていても、グランニールに謝罪する。
「……何を言っておる。約束を守ってくれて感謝する」
「グ、グランニールなのか?」
「そうだ。嫌な役を任せて……悪かったな」
妾は精一杯、首を横に振る。
「最後に、昔のように呼んでくれ」
「……グラちゃん」
「ありが……と――」
「グラちゃーーーん!」
最後はエビルドラゴンとしてではなく、誇り高きドラゴン族グランニールとして息を引き取った。
既に聞こえてはいないだろうが、別れの言葉を告げる。
「さようなら、友よ……そして、ありがとう」




