76話 大暴露大会!
「タクトさん?」
残されたユカリが声を掛けてきた。
「何だ?」
「私、結婚出来るんでしょうか?」
「えっ!」
ユカリは、元々結婚願望が強く今日、シキブの姿に感激し、更にブーケを貰ったことで、結婚へのスイッチが完全に入ったようだ。
「相手はいるのか?」
「えっ、はい。 恥ずかしながら……」
「相手が居れば別にいつでも出来るんじゃないのか? 相手次第もあるけど」
「その相手が問題なんです……」
話を聞くと、彼の名前は『アランコ』と言い、ユカリとは幼馴染で、村から一緒にこの街に出てきたそうだ。
今は、この街の『道具屋』で働いて知識を付けて『鑑定士』を目指しているらしいが、去年の試験でC級の試験を一度落ちている。
今年こそは! と必死で勉強している為、最近はなかなか会えずにいる。
アランコは、『鑑定士』になってからで無いと、ユカリとは結婚出来ないと前々から言っているみたいで、ユカリは不安なようだ。
「なるほどね。 勉強している彼を応援はしたいけど、会う事で邪魔はしたくないって事か」
話を聞き終わったが、恋愛経験の乏しい俺にアドバイスが出来る内容では無かった。
マジで困った。
「主よ、発言しても良いですか?」
「あぁ、クロ。 いいよ」
「改めてクロと申します、タクト様の従者になります」
「あっ、ユカリと申します」
「ユカリ様の気持ちとしては、どうしたいとお考えなのですか?」
ユカリは暫く考えて、
「アランコには『鑑定士』になって貰いたいです。 しかし私はアランコに会いたいし、いずれ結婚したいと思っています」
「なるほど、そのことを彼に伝えた事はありますか?」
「いえ、一度も話していません」
「私の推測でしかありませんが、聞いて頂いて宜しいですか?」
「はい」
「アランコ様は、御自分に自信が無いので自信をつける為『鑑定士』になるという事を、目的にしているかと思います。 ユカリ様は、アランコ様に自分の気持ちを正直に話さないと、今は多少のすれ違いかも知れませんが、気が付くと違う道を歩んでいる事になります。 ユカリ様もアランコ様も結婚を考えているのであれば、まずお互いの気持ちをぶつけてみませんか?」
クロ、すげぇ!
「たしかに、お互いに遠慮して本音で話をしたことはありません。これから夫婦になるのであれば隠さずに本音で話す事が必要ですね。 ありがとうございます」
深々とお辞儀をした。
「そうだな、とりあえず彼と話をする事が大事だ。 それと助言ならあそこの新婚にも聞いてみたらどうだ?」
ムラサキとシキブの方を見ると目が合い、ムラサキがこっちに来いと手招きしている。
「呼ばれているみたいだから、ユカリも一緒に来いよ」
ユカリを連れて、中央の新婚テーブルに着く。
ふたりからは、改めて礼を言われたが、「俺は何もしていないから、トグルとイリアを労ってやってくれ」と返した。
「それより、ユカリが聞きたいことがあるらしいぞ?」
「何だ?」
「何?」
ユカリの方を見る。
ユカリは恥ずかしそうにして、なかなか言おうとしない。
「恥ずかしくて言えないようなら、俺が代わりに聞いてやろうか?」
ユカリが頷いた。
「どうしたらシキブとムラサキの様な、理想の夫婦になれるのか? を聞きたいらしいぞ」
ふたり共顔を赤らめて、
「もう、ユカリったら理想の夫婦だなんて」
テーブルにある酒を、ひたすら呑み始めた。
「いえ、本当です。 お付き合いしている時から、仲良くて羨ましかったんです」
シキブの手が止まり、
「えっ、ユカリは私達が付き合っていたの知っていたの?」
「はい、皆知っていたと思いますよ。 トグルさんもそうだと言ってましたし……」
ギルドメンバー達は、急に無口になり皆、目線が合わないようにしてる。
「そうですよね、トグルさん」
そう言ってトグルの方をみる。
皆その視線に合わせてトグルを見る。
逃げようとしていたトグルだったが、シキブとムラサキに呼ばれ移動してきた。
結局は、トグルだけでなく近くにいたギルドメンバーも巻き込んでの、交際していた時の暴露大会になった。
本人達にすれば、顔から火が出る程恥ずかしいだろう。
必死で隠していたつもりなのにバレているなんて、思っていないのだから……