765話 ババ抜き大会ー1!
朝早くから、ゴンド村にルーカス達王族御一行が姿を現す。
ルーカスは自信があるのか、優勝する気のようだ。
勿論、護衛衆も一緒だ。
以前に防衛都市ジークが黒狐に襲われたとき、アルとネロが魔人襲撃から街を救った。
礼を言う為に、ルーカスがお忍びでゴンド村を訪れている。
その際にも同行した護衛衆は、ゴンド村の様子に、かなり驚いていたそうだ。
セルテートやステラは、魔王であるアルとネロをかなり警戒していた。
ターセルや元護衛三人衆のカルアから「大丈夫」という言葉を聞いても、警戒を解き事はしなかったそうだ。
一番の問題だったのは、ロキサーニが師匠であるロキこと、ローズルと対面した時だ。
バツが悪そうなローズルとは対照的に、死んだと思っていた師匠と会えたロキサーニは感動していたそうだ。
ロキサーニはセルテートやステラと違い、ローズルの言葉を信じてアルやネロとも打ち解けていたそうだ。
人族と魔族が一緒に生活する村に理解が示せないのではなく、違和感が拭えないのかも知れない。
「ん?」
四葉商会からマリーとユイも参加するようだ。
俺の事は忘れている筈なので、出来る限り接触しない方が良いだろう。
しかし、ババ抜き大会参加の話をしたのは誰なのだろうか?
アルやネロとも思うが、一番怪しいのは王妃のイースだろう。
「アル!」
「なんじゃ?」
「料理の用意をしてくるから、あとはクロと上手い事やってくれ」
「分かったのじゃ」
俺はシロと二人で料理をする為、家の中へと移動する。
暫くすると、外からクロの声が聞こえて来た。
ババ抜き大会が始まったのだろう。
ルール説明に、商品。優勝者にはドワーフ族のトブレが作ったトロフィーの贈呈と、聞こえてくるだけだが会場も盛り上がりが凄い事だけは分かった。
番号を読み始めると、対戦相手を決めているのだと分かる。
歓声やため息などから、当たりたくない相手がいるのだとも感じた。
普通に考えれば、王族とババ抜きなどしたくはないだろう。
「御主人様。こちらは出来上がりました」
シロと村人の女性たちと協力して作っている料理も、着々と出来上がっていったので、女性たちに会場へと運んで貰う。
俺が運ぶべきなのだろうが、マリーとユイに声を掛けられた時、どのような顔で会ってよいのか分からない。
俺の気持ちを察してか、シロが村の女性たちとで運ぶように頼んでいた。
いざとなると、俺も臆病だと感じた。
あまり、人に大きなことも言えない……。
「では、ゴンド村第一回ババ抜き大会の試合開始です!」
クロの声が響いた。
料理を運び終えたシロが、対戦について教えてくれた。
ルーカスはマリー、イースとユイ、ユキノとアル、ステラにネロ、セルテートとターセル、ヤヨイとカルアにがそれぞれ戦っているそうだ。アスランとローズル、ロキサーニは村人以外とは戦わない席になったそうだ。
思ったよりも、対戦数が多い。
予選から勝ち上がって来るのは、全部で十人になるので決勝戦前に、準決勝を行うとクロの判断で決めたようだ。
予選も前半と後半に分かれているので、今は前半の五組が戦っている。
歓声が上がる。
どこかの組で、勝者が決定したようだ。
「最初の勝者は、予選第三組アルシオーネ様‼」
俺はクロの言葉を耳にして、心の中で「良かったなアル!」と呟く。
続けて、ターセルとネロの名が呼ばれる。
そして残りの二組は、村人の名が呼ばれていた。
意気込んで大会に臨んだ国王ルーカスは、予選敗退だ。
続けて後半の部になる。
来客は全員敗退して、村人の名が順番に呼ばれていった。
驚いたのは前村長のゴードンや、双子の姉リズの名が呼ばれていたことだ。
無欲で勝負に挑んだのが良かったのだろうと、俺は勝手に推測していた。
そして、準決勝。上位二人が決勝に進めるとあって、アルとネロは気合が入っていた。
しかし、残念な事に決勝に進めたのはターセルとネロだった。
「負けたのじゃーーーー‼」
悔しそうに叫びながら、料理中の俺に飛び掛かって来た。
「悔しいのか?」
「当り前じゃ! 何故、妾は勝てんのじゃ?」
「毎回、勝つとは限らないから面白いんだろう。それに運を味方にしないと勝つのも難しいしな」
「どうやったら、運を味方に出来るんじゃ?」
「それは俺も知りたい」
「そうなのか……まだまだ、特訓が足りんようじゃ」
「まぁ、前にも言ったがババ抜きは運の要素も強いからな。今度は、約束していた他の遊びも教えるから大会でなく、みんなで楽しく遊んだらどうだ?」
「勝負じゃないのか?」
「まぁ、勝負だけど、アルだって子供相手には本気を出せないだろう?」
「当り前じゃ、強者の余裕というやつじゃ」
「それは、子供たちにも楽しんで欲しいとアルが思っているからだろう」
「そうなのかの……」
「この世界、勝負だけが全てじゃないからな。楽しく遊ぶことだって出来るんだよ」
「確かにお主に出会ってからは、そのような考えも分かる気がする」
アルは考えながら話をする。
「まぁ、アルも負けた勢いで物を壊したりしないだけ、大人になったんじゃないのか?」
「失礼じゃの、妾は昔から大人じゃ」
「はいはい」
俺はアルに笑顔を見せた。




