763話 特訓の成果?
ババ抜き大会まで、ピンクーの特訓に時間を割く。
クロにシロも加わり、色々な環境でレベルを上げるために特訓をした。
ピンクーは『レベル十一』にまで上がっていた。
俺はピンクーのレベル上昇が、早いのか遅いのかが分からずに、シロとクロに意見を聞く。
「通常よりも遅いかと思いますね」
「確かにそうですね。主の補正があるので、もっと上がってもいい筈なんですが……」
シロとクロも首を捻っていた。
しかし、考えていても仕方が無い。
何故なら、ピンクー本人に危機感が無いのだから……。
「シロ姉! これ、もの凄く美味しいですよ」
口いっぱいに食べ物を入れ、頬を膨らませている。
ご機嫌なピンクーがシロにも、御裾分けと言わんばかりに、木の実を渡す。
「……私は、こういった物は食べないので」
「えっ、そうなんですか! クロ兄も食べないので、私の独り占めですね、やった~!」
特訓に来ている筈なのに、ピンクーはピクニックにでも来ているかのように楽しんでいる。
いや、特訓からの現実逃避なのかも知れない。
「休憩はここまでだ」
俺の言葉が聞こえていないかのように、木の実を拾っている。
その距離は、徐々にだが離れて行っている。
「……おい、置いていくぞ」
俺が小さな声で呟くと、すぐに振り返り駆け寄ってきた。
「やだなー、親びんは冗談言って」
ピンクーは悪びれる事も無く、陽気に話す。
「クロ。特訓の続きを頼む」
「はい、承知致しました」
俺とシロは、クロとピンクーから離れて特訓の様子を見守る。
「では、始めますよ」
「はい……」
クロは影から攻撃を仕掛ける。
ピンクーは素早く移動しながら、クロの攻撃を回避する。
しかし、目線が下に言っている為、クロの上空からの攻撃に対応できずにいた。
「クロ兄、卑怯ですよ‼」
上下から攻撃するクロに対して、ピンクーが文句を言う。
「戦いに卑怯もへったくれもありません。本当の戦いであれば、貴女は死んでいるのですよ」
クロはピンクーの文句を返しながらも、攻撃の手を休めない。
ピンクーは木を駆け上がり、【滑空】で空にいるクロに反撃しようとするが、クロの高さまでは届かない。
それどころか、【滑空】で移動している時は無防備になっているのか、クロの攻撃が面白いように当たっていた。
ピンクーは、力尽きたのか螺旋を描くように落ちて、地面に叩きつけられた。
「いっ、痛いですーーーー‼ もう、無理です。死んでしまいます!」
大声で叫ぶ。
「今、死ぬか。俺たちに置いてかれて死ぬか、どっちがいい?」
俺は冷たくピンクーに言い放つ。
「……どっちも嫌です。死にたくないです」
「じゃあ、死なないように特訓を続けるしかないな」
「親びん、意地悪ですね」
ピンクーは、恨めしそうな表情で俺を見ていた。
自分より大きな相手と戦った事の無い為、戦い方が分からないのと、以前にいた世界と環境が異なるので戦闘方法も違う為、ピンクー自身も戸惑いがあるようだ。
肉弾戦が得意なのか、魔法攻撃が得意なのかが、特訓を見ていても良く分からない。
どちらか分かれば、得意分野を伸ばそうと思っていたのだが、俺の思惑が外れたようだ。
「シロ。ピンクーは戦士系か魔法士系のどちらだと思う?」
「そうですね……」
俺はシロに意見を聞く。
「私が見る限り、戦士系かと思いますが……」
シロも、良く分からないのか明確な回答では無かった。
一方的にクロの攻撃を受けているが、文句を言いながらも戦う姿勢は見せている。
一応、最強戦士と言われたプライドなのだろうか?
「もう‼」
ピンクーは影からの攻撃を叫びながら回避していたが、爪で引っ搔くような攻撃をすると、影が切れて消滅した。
「おっ!」
俺は思わず声を上げてしまった。
腕の中にいたシロも驚いたのか、少し身を乗り出していた。
「親びん、【凄斬爪】のユニークスキル習得しました‼」
ピンクーは大声で嬉しそうに俺へ報告する。
わざわざ、報告しなくてもいいのに……と思いながらも、ピンクーも余程嬉しかったのだろうと思ったので、何も言わずに一旦、特訓を止めた。
「良かったですね。これで攻撃のバリエーションも増えましたね」
「クロ兄のおかげです。ありがとうございます」
【凄斬爪】は爪で引っ掻く攻撃だと、ピンクーは自慢気に教えてくれたが、それは説明をされなくても分かっている。
褒めて伸ばす訳では無いが、ピンクーの話を否定せずに一通り聞いてから褒めてやる。
「流石だな」
「当り前ですよ。私を誰だと思っているんですか」
褒めると調子に乗るところは、本当にエリーヌそっくりだ。
ピンクーの着ぐるみを着たエリーヌ本人では無いかと疑ってしまう。
「栄養補給する為に、木の実を食べて来ます」
俺の返事を待たずに、ピンクーは走って行った。
「御主人様、そろそろ御時間では?」
「もう、そんな時間か!」
俺は思っていた以上に、時間が経過していたことに驚く。
「とりあえず、ゴンド村に移動するか」
「そうですね」
「承知致しました」
三日後に開催されるババ抜き大会の準備の様子を見る為に、ゴンド村に顔を出す予定だった。
シロとクロの返事を聞いてから、遠くで無邪気に、はしゃいでいるピンクーを捕まえる。
「時間だ」
「そうなんですか。もう、ちょっとだけ木の実を取りたいのですが……」
瞳を潤ませながら、訴えかける。
「……駄目だ」
「分かりました……」
小さい姿に変化したピンクーを胸ポケットに入れて、ババ抜き大会の会場であるゴンド村に移動した。




