75話 強さの理由!
酒場中央には、新郎新婦のムラサキとシキブが、皆からお祝いの言葉を受けている。
ふたり共、ローラに『写真機』でツーショットを撮って貰い、着替えてから酒場に遅れて来たので、他の連中は既に出来上がっている。
俺は、クロとシロと端っこの方で、それを見ている。
トグルを見つけたので、クロとシロをおいて席を立つ。
酒と料理をトグルの前に置き、
「ありがとうな!」
礼を言って、空いている席に座る。
「別に、お前の為にやった訳じゃない」
「そらそうだ。 今回の功労者は、お前とイリアだな」
「はぁ、お前だろうが!」
「いや、俺は裏方としての仕事しかして居ない。 お前とイリアは、ギルドメンバーへの根回しや、当日の用意等をしてたじゃないか」
何言ってんだ、コイツ? って顔をしている。
「俺がやったことは、結婚式をやると言った事と、衣装と指輪を用意しただけだ。 あと今日は野次を飛ばしていたくらいだ」
「それだけって……」
「ギルドメンバーからのプレゼントは、かなり迷っていたんだろう。 だが、お前はムラサキ達の欲しい物が分かっていた。 最近来た俺では絶対に出来ない役割だ」
トグルは、納得していない様子だ。
「そもそも、写真立てなんて道具屋にも、そうそう置いてあるもんじゃない。 色々と、探し回ってくれたんだろう」
トグルは無言のまま、酒を呑んでいる。
「お前が結婚する時も、お祝いしてやるよ」
「なっ! 馬鹿な事言うな、俺はまだまだ強くならなくちゃいけないんだ」
「何の為に強くなるんだ?」
ふと、疑問を感じたので聞いてみる。
「強くなるのに、理由なんてないだろうが!」
トグルは、酒を一気に飲み干す。
「気に障るなら先に謝るが、強くなるって手段だろ。 目的が無ければ強くなれないんじゃないのか? 目的地も無いのに、ひたすら走り続ける事は出来ない、絶対に途中で挫折する。 俺も経験があるから分かるが、それが分からない内は成長はしない。 ただし分かれば必ず成長はする。 たとえば、ムラサキとシキブのようにお互いを守るというのも、その目的の強さのひとつじゃないか?」
トグルは、黙って考えている。
「じゃ、俺は自分の席に戻るわ!」
トグルは、返事もせずに黙っていた。
席に戻ると、シロの隣にはイリアとユカリが居た。
イリアは、かなり泥酔している。
「タクトさん、貴方が来てからというもの、私達がどれだけ忙しくなっているか分かってますか!」
絡み酒かよ……タチ悪いな。
「イリア、随分と呑んでるようだな」
「はぁ、私が酔っ払う筈ないでしょうが!」
酔っていないという酒呑み程信用出来ないものはない。
……面倒だ。
「あれ、シロの飲み物無いのか? イリアと一緒に取って来たら」
「そうです! シロ様行きましょう。 このイリアが案内致します!」
シロは苦笑いしながら、千鳥足のイリアを介抱しながら、カウンターへと歩いて行った。