753話 その呼び方……!
さて、どうするか……。
ピンクーのレベルを上げる必要がある。
とりあえず、俺はシロとクロ、それとピンクーにエリーヌとモクレンとの会話の内容を話す。
「そうですか、分かりました。これから、御指導の程宜しく御願い致します」
俺たちは礼儀正しいピンクーを笑顔で受け入れる。
「それで……皆さまは、なんとお呼びすれば宜しいでしょうか?」
「そうだな……転移前の世界では、こういった場合どう呼ぶんだ?」
「はい、タクト様は親びん、シロ様はシロ姉になります。クロ様はクロ兄ですが、どうでしょうか?」
親びんにシロ姉、クロ兄……。
シロとクロも困った顔をしている。
「確かに、珍しい呼び方だな。そう思うよなシロ、クロ」
「そっ、そうですね」
「確かに……」
「駄目でしたか?」
ピンクーは、つぶらな瞳を潤ませながら俺たちに問いかける。
「……分かった。その呼び名でいい」
「わかりました」
ピンクーは笑顔になる。
「ところで、エリーヌからはどんな風に聞かされていたんだ?」
「はい、エリーヌ様は同期では唯一、二つ名が貰えた素晴らしい神だと教えて頂きました。それと……」
ピンクーは申し訳なさそうに俺を見ながら、次の言葉を飲み込んでいた。
「別に怒らないから、エリーヌから言われた事を言ってくれ」
「……はい。使徒の親びんは、どうしようもなく出来が悪いが、自分がフォローしている為、使徒の中でも群を抜いて優秀な評価を貰えるまでになったと。そして毎回、親びんのフォローをするのが、とても大変だとも仰っていました」
「……そう」
「けっ、けっして私が言ったわけではありません」
俺が怒りを抑えているのが分かったのか、ピンクーは焦っていた。
勿論、ピンクーに対して怒っている訳では無い。
怒りの矛先は勿論、エリーヌだ。
なにが、少しは見栄を張りたいだ!
エリーヌには、後で文句を言う事に決める。
俺の感情はさておき、ピンクーの話を聞かなければいけない。
「ピンクーは、歴代でも優秀なジャイアントモモンガだと聞いたが?」
「はい、自分で言うのも変ですが、仲間からは狂戦士と言われてました」
「……狂戦士?」
「はい」
……狂戦士って、バーサーカーのことだよな?
俺はもう一度、考える。
この可愛らしい姿のピンクーが狂戦士?
「それは、戦闘能力が高いということか?」
「はい、私は種族の中で一番強かったです。勿論、オスよりもです!」
ピンクーは自慢気に話す。
「そうか……因みに、他の種族と比べて、どれくらいの強さだった?」
「そうですね……敵対するジャイアントムササビの猛者とで、私が僅差で勝利を収められるくらいです。他の種族では敵はいませんでした」
「それは、ジャイアントモモンガや、ジャイアントムササビが一番大きい生物だったということか?」
「はい、そうです。ですので、エクシズに来て、自分より大きな生き物に遭遇したので、びっくりしております」
俺は言葉を失った。
確かに、生息する生物で一番大きければ、敵なしだ。
それに、もしかしたらピンクーの居た転移前の世界では、オスよりメスの方が強かったのかも知れない……果たして、レベル六十になったところで、エリーヌやモクレンが思っているような強さまで成長するのだろうか?
とりあえず、シロを抱き上げると、クロが右肩に乗る。
ピンクーは、どうしてよいのか分からないようだ。
小さくなったとはいえ、七十センチはある。
当然、シロやクロよりも大きいので、簡単に担いだりすることは出来ない。
それに今迄、見た事の無い魔物を引き連れていると、人々の視線を集めることも間違いない。
一応、【隠密】のスキルを持っているが、レベルが低い。
正直、困った。
「あの~、私が小さくなれば、いいですか?」
「小さくなる?」
「はい。私たち種族は、体を小さくすることが出来ます。勿論、無限に小さくすることは出来ませんが、以前と同じであれば十センチ程度であれば出来ると思います」
「……ちょっと、試してくれるか?」
「はい、分かりました」
返事を終えると、ピンクーは前足で長い四本の指とあるか分からないような短い親指? で形を形成すると、徐々に体が小さくなっていく。
まるで忍術でも見ているようだった。
俺が見惚れている間に、手の上に乗る大きさまでになった。
「こんな感じです」
ピンクーは恥ずかしそうな仕草をしながら話す。
「この小さくなる能力は【変化】なのか?」
「はい。逃走や、小さな穴に入る際によく使用していました」
たとえ、小さくなっても戦闘能力は落ちないようだ。
俺の知っている【変化】とは違っていた。
同じスキルでも効果が異なるようだ。
俺は右手でピンクーを掬い、左手の掌の上に移す。
自分の居場所にピンクーが侵入したことで、シロの機嫌が悪くならないか心配だったが、俺が左胸にポケットを作り、そこにピンクーを入れると提案した。
「シロ、クロそれにピンクー、とりあえず、アラクネ族の集落に行くか」
「はい、御主人様」
「承知致しました」
「親びん、分かりました」
服を直してもらう為、アラクネの集落に向かう事にした。
しかし、今更だがシロにクロ、ピンクーと呼ぶと自分が戦隊もののリーダーであるレッドにでもなった気分だ……。




