74話 結婚式-3!
口づけが終わり、照れ笑いしている新郎新婦。
歓声が落ち着くのを待って、トグルとユカリがふたりの横に行き、
「これはギルドメンバーからです」
ユカリが言うと、トグルが箱を手渡した。
「中身を見てもいい?」
ユカリが微笑む。
シキブは、指で涙を拭って箱を開ける。
中身は、写真立てだった。
「トグルさんが選んだんですよ」
「ユカリ、余計なこと言うな」
トグルは照れている。
「ありがとう、トグル」
シキブはお礼を言う。
「なかなか面白い趣向だな」
ローラが隣にきて話しかけてきた。
「まぁな、結婚は新しい人生の門出だから、多くの人に祝ってもらった方が良いだろう」
「なるほど、そういう考えも面白いな」
「ところでその手に持っているのはなんだ?」
「あぁ、これは『写真機』だ。 イリアに頼まれていたので取った。 面白かったので何枚か撮ったぞ」
この世界では、写真はかなり高価なはずだ。
新聞にも写真が載ることは少ない。
大体が、文字だけで挿絵がたまにある位だ。
トグルが写真立てを選んだ時には驚いたが、こういう意図があったのか!
しかし、研究用品として使っているんだよな……
そもそも何の研究をしているんだこの人は?
「なぁ、後で集合写真撮ってくれないか?」
「別に良いぞ、タクトに借りを作っておくのは大歓迎だ!」
「嫌な予感しかしないぞ!」
「ムラサキ、シキブ!」
新郎新婦を呼び、ギルドメンバーに挨拶をしてくれる様に頼む。
「俺たちの為に、こんな事してくれて感謝する」
短い挨拶だったが、口下手のムラサキには精一杯の言葉だという事はここにいる誰もが分かっていた。
続いてシキブが、
「ギルマスとして、いち冒険者として、今日程嬉しかった日はありません。 冒険者として、常に死と向き合っている日常を送っていますが、これからも誰ひとり欠ける事無いように努力しますので、この未熟なギルマスと私達夫婦をこれからも宜しく御願い致します」
お礼の言葉を言い終わると拍手が鳴り響くなか、ふたりは頭を下げた。
「えーっと、一応式はこれで終わりになるんだが、女性達は皆こっちに集まって」
女性達が集まったのを確認すると、
「今からシキブが後ろを向いて、花束を投げるから、それを床に落ちるまでに誰か1人受取ってくれ」
なんの事かは分からないが、とりあえずやってみる雰囲気だ。
「じゃ、シキブ宜しく」
「三・二・一」で花束が天に舞い、パサっと手の中に落ちた。
「シキブ、振り返っていいぞ」
シキブは振り返り花束の行方を確認すると、受け取ったのはユカリだった。
「皆、何のことか分からないかと思うが、俺の育った所ではこの花束を『ブーケ』と言って、花嫁が自分の幸せを次の人へ分けるという意味で、受取った人は近々結婚出来るというジンクスがある」
受取ったユカリは顔を真っ赤にしている。
皆から揶揄われている。
俺自身『ブーケトス』の詳しい意味も知らないし、適当でいいだろう。
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「はーい、皆並んでくれるか」
ローラが『写真機』を持ちながら、新郎新婦を中心に全員が入るように指示している。
俺自身は、写真に入る気が無いのでローラの後ろで作業を見ていた。
殆どのギルドメンバーは写真を取られることが初めてなので、取る前から動かないものや、必死で良く撮られようと色々な表情をしている者等、動きを見ていると面白い。
もっと、簡単に『写真機』や娯楽品が手に入るといいのに……
そもそも『写真機』って、いくらするんだ?
「タクト!」
ムラサキが俺を呼ぶが「俺はいいよ!」と返す。
しかし、他の皆も呼ぶので仕方なく写真に入ることにする。
クロとシロは、気付かれない様に隠れて貰ってる。
ムラサキの希望で、隣に立つことになった。
「はい撮るぞ! 三・二・一」
「カシャ」と、小さな音が鳴る。
「はい、終わり!」
合図とともに皆が息を吐きだした。
『写真機』アルアルだな。
「二次会は、ガイルが腕によりを掛けてくれた料理だ。 酒はセルフだから自分たちで用意する事! 料金は、寄付金から出しているから、呑み放題の食べ放題だ!」
ギルドメンバー達は、騒ぎながら隣の酒場に移動していった。