744話 野営!
「しかし、悪いな」
「いいって事よ。運賃まで貰った事だしな」
特にやる事も無かったので、人型になったシロとクロの三人でオーフェン帝国の街道を歩いていたら、通りすがりの商人が乗せてってくれるというので、甘えることにした。
中年男性の商人は『オットー』という名の猫人族だ。
少し戻ったところにある街で商品を下して、荷馬車に商品を仕入れて戻るつもりが思った商品が無かったので、荷車は半分ほど空いていた。
俺たちは、そこに載せて貰っていた。
「しかし、兄ちゃんたちは何者なんだ? もしかして、お偉い貴族様なのか?」
「違う違う」
一応、冒険者らしい格好の俺に、可愛い服を着ているシロと、執事のように振舞うクロ。
確かに、お嬢様と付き添いの執事に、護衛の冒険者と思われても仕方が無い。
「まぁ、色々あってな」
「そうか……訳ありってことだな。分かった、俺もこれ以上は聞かないから、安心してくれ」
オットーは勝手に自己完結して、俺たちを逃亡生活を送る貴族だとでも勘違いしたのだろう。
「オットーは、どこに向かっているんだ?」
「ここから二日ほど先にある『ヤステイ』という街だ」
ヤステイは、大きくは無いが帝都にも近く、気候も穏やかなので活気あふれる街だと自慢気に話していた。
「この間の武闘会の影響か、今迄以上に強くなろうと国民が燃えているから、商売人としては、よい傾向だ」
「国民が強くなろうとしたら、儲かるのか?」
「勿論だ! 戦えば怪我もするし、腹も減る。それに武器や防具を新調しようとする者もいるしな」
「なるほど……」
「それに今年は魔物の発生率が高いのも、多少影響しているだろう」
「そうなのか?」
「あぁ、今迄は出現しなかった地域にゴブリンや、オークなどを目撃したという情報もある」
「冒険者ギルドが対応しているのか?」
「そうだ。しかし、エルドラード王国と違い、オーフェン帝国は魔物との戦いに慣れている者が少ないからな」
「そもそも、魔物の出現率が低かったからか?」
「そういうことだ。兄ちゃんたちも旅を続けるなら、気をつけろよ」
「覚えておく」
普段と違う兆候が表れるのは、何か原因があるはずだ。
嫌な事を思い出しながら、オットーの話を聞いていた。
「今夜は、ここらで野営でもするか」
オットーの口から野営という言葉を聞いて驚く。
エルドラード王国であれば、商人だけの野営など有り得ないからだ。
基本的に数日の旅であれば、村や町で寝床を探す。
何もない場所で、野営などすれば魔物たちに襲われる危険が高いからだ。
これも御国の違いというやつなのだろう。
俺たちは野営の手伝いをする。
乗せてくれた礼もかねて、俺たちで火の番などをすることをオットーに伝える。
「悪いが、いいのか?」
「気にするな。ゆっくり、休んでくれ」
「分かった。もし、魔物が出たら俺が倒してやるからな」
「それは心強いな」
俺は笑って返す。
「……来たか」
オットーが眠りについて、暫くすると魔物が俺の【魔力探知地図】に引っ掛かる。
馬たちが気付いて暴れると危険なので、馬たちには【結界】で魔物たちの気配を完全に消す対応をする。
「主、我が対応致します」
「頼んだぞ、クロ」
「承知致しました」
クロには魔物は仕留めた後に影に収納して、ここに持ってきてもらう事にした。
オットーは商人なので、もしかしたら買い取ってくれるかもしれないと思ったからだ。
路銀を稼ぐ目的と、オーフェン帝国の価値観を知りたかった。
「ふあぁ~……」
寝ぼけ眼で大きな欠伸をして、オットーが目を覚ます。
「うわっ! なっ、なんだこれは」
「おはようさん。昨日、襲って来た魔物たちだ」
ゴブリンが二十数匹に、ホーンラビット六匹と、グレートボア三匹が地面に並べて置かれていたので、オットーは驚いていた。
勿論、ほかの魔物たちが来ないようにクロが影から出した後、【結界】で血の匂いなどが外部に漏れない処置を施していた。
「俺たちには不要なので、必要であれば全部持っていってくれ」
「……いいのか?」
「あぁ、なんなら解体作業までやろうか?」
「解体まで出来るのか?」
「まぁな」
「じゃぁ、ホーンラビットとグレートボアを頼む。俺はゴブリンから核を抜き取るから」
そういうと、荷馬車に行き核を取り除く道具を持って来た。
「終わったぞ」
「はぁ?」
ホーンラビットとグレートボアが綺麗に解体されて、地面に置かれている光景を見たオットーは驚きのあまり、持って来た道具を手から離す。
「いやいや、道具を取って戻ってくるまで数分だぞ。こんな短時間で解体など……」
オットーは独り言を呟いていた。
「ゴブリンの核も取っておこうか?」
「あっ、あぁ……」
シロとクロに手伝ってもらい、あっという間に核だけをゴブリンの体から取り出した。
「ほいっ」
俺はオットーの手のひらを上に向けて、ゴブリンの核を握らせた。
「兄ちゃんたち、何者だ?」
「ただの旅人だよ」
驚きながら質問をするオットーに、俺は笑いながら答えた。




