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740話 神の所業!

「アル、さっきの話を詳しく教えてくれるか?」


 先程、アルが話したプラウディアの【呪詛】の事が気になった。


「よいぞ」

「プラウディアに【呪詛】を施したある者ってのは、誰だ?」

「ガルプじゃ」

「ガルプだと!」

「そうじゃ。プラウディアの話だと、人体実験に興味を持ったガルプが虎人族と似た遺伝子をもつ、シャドウタイガーの魂を封じ込めた特殊な(コア)を体に埋め込まれて転生してきたそうじゃ」


 俺はアルの言葉に驚く。

 神であるガルプが、そのような事をしても許されるのか?

 いや、神だから何をしても許されるのか?


「新たな魔王を作り出す為の実験体じゃと、プラウディアは言っておった。そもそもシャドウタイガーなど、既に絶滅した太古の魔獣じゃ。妾に会った時もシャドウタイガーを制御するのに苦労しておったぞ」

「そんなにやばい状態だったのか?」

「常にシャドウタイガーと心の中で戦っている状態なのじゃろう。気を抜けば、意識を持っていかれるとプラウディアは言っておった」

「そうなのか……」

「妾も一度しか会わなかったのは、プラウディアが何度も会えば、情が移って殺すのを躊躇うかも知れんと言われたからじゃ」


 俺は会った事の無いプラウディアに対して、尊敬に似た感情を抱く。


「そして、先程も話したように弟子に自分を殺す事を頼んだそうじゃ。それが、デニーロなのじゃろう」


 俺は『冥界』に行き、デニーロと話をしたいとも考えたが、デニーロが死んでも守った事を軽視する行動かも知れないと思った。


「もしかしたら、プラウディアはデニーロと一緒にいた時に一瞬、シャドウタイガーに意識を奪われて、デニーロを襲ってしまい、デニーロも身を守るために咄嗟に反撃したのかも知れんの」

「プラウディアは、デニーロの攻撃を自ら受けて死んだという事か?」

「プラウディアも意識を戻した時に、デニーロを襲ってしまった自責の念から、抵抗しなかったのじゃろうな。まぁ、あくまでも妾の推測じゃがな」

「俺もそう思うぞ」


 弟子であるデニーロを襲ってしまった事で、これからも同じことが起こりうると考えたのだろう。

 そして又、弟子を襲うくらいなら……。


「それより、お主は気付いておらぬのか?」

「なにがだ?」

「はぁ……。先程のお主と、デニーロの会話じゃ。人族は皆、お主の事を忘れておるのだろう?」

「あぁ、そうだが……」


 俺は思い出す。

 ふと、以前に会っていた事をデニーロに話した。

 そして、デニーロは俺の事を知っていた……どうしてだ?

 考えられることは、一つしかない。デニーロは魔族ということだ。


「気付いたか?」

「あぁ。しかし、どういう事かが分からない」

「多分、プラウディアを殺した時に、シャドウタイガーの(コア)にでも触れた影響なのじゃろう。魔族とまでいかないが、シャドウタイガーの影響を受けていたことをデニーロ自身も分かっておったのじゃろうな。そして、いずれ自分もプラウディアのようになるかも知れんと思っていたのだろう」

「しかし、それだとスラム街に居た理由が分からない。あそこで暴れでもしたら、それこそ街全体に被害が出るんじゃないのか?」

「影響が少ないからこそ、普通の生活ではない道を選んだのじゃろう。まぁ、プラウディアを殺した事も影響しているがな」

「しかし、核に触れただけで影響を受けるようなものなのか?」

「普通は無い。しかし、絶滅した古代種やガルプが用意したものじゃ。妾でも分からぬ。あくまで、可能性の話だ」


 アルは可能性だというが、実際にデニーロは俺の事を忘れていなかった。

 これは間違いない事実だ。

 もし、そのシャドウタイガーの(コア)が悪用されることがあれば……俺は、嫌な予感が頭を過ぎる。

 俺の問題はさておき、それよりも……。


「デニーロの死体はどうする?」

「そうだな……」


 このままにしておくことも出来ない。

 だからといって、この場所に埋葬するのも違う気がしていた。

 この場所は、デニーロが好き好んで生活していた場所では無いと思ったからだ。

 そして、出来れば安らかに眠れる場所で、眠らせてあげたいと思っている。


「あの……大師匠の眠る場所なら私、知っています」


 ローレーンがプラウディアを埋葬した場所を、知っているようだ。


「その場所にデニーロを埋葬するのに、レグナムの許可は必要ないのか?」

「……そうですね」


 レグナムにとって、プラウディアが眠る場所は神聖な場所だと感じた。

 その場所に俺たちの意見だけで、事を進めるのは違うだろう。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 翌日。

 レグナムの許可を得て、プラウディアの眠る場所を訪れた。

 オーフェン帝国になる海が見える丘だった。

 一本の木が刺さっている。これが、プラウディアの墓なのだろう。

 レグナムは、デニーロが私的な理由で、師匠であるプラウディアを殺したのではないと思い直したようだ。

 アルが言った通り、プラウディアが殺された状況を見た時に、デニーロから本当の事を話されても、信じられないと感じたからだ。

 デニーロは、プラウディアの願いを叶えるために殺した事。

 そして、自らを悪者として、師匠を殺した重荷を背負いながら生活をしていた事。

 レグナムは、もし自分がデニーロと同じことをプラウディアに出来ただろうか? と昨夜、自問自答していた。

 結論は自分ではプラウディアを殺すことは出来ない。

 つまり、プラウディアの願いを叶える事は出来ないという事だ。

 自分はデニーロよりも駄目な弟子だと、涙を流した。

 改めて、デニーロは尊敬出来る兄弟子だと思った……。


「師匠の隣で御願いします」


 レグナムはデニーロの亡骸を、プラウディアの隣に埋める事にした。


(私も、もう少ししたら、そちらに行きます)


 目を閉じているレグナムの横顔を見ていたら、そんなことを言っている気がした。

 出来れば、ローレーンの為にも長く生きてもらいたい。

 もう一度、説得してみようと俺は思った。

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